・・・ 何とかしてその状態をつづけるために、坊主を動員して女は男に劣るものだ、女は男に屈従すべきものだと朝に晩に吹きこませる。労働者の男が理屈を云う女を、何だ生意気な! と思い、互に団結して資本家地主にぶつかって来ないよう、陰険な仲間割れをさ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・戦争を強行するためには、すべての人民が、理不尽な強権に屈従しなければ不便であった。その目的のために、考え、判断し、発言し、それに準じて行動する能力を奪った。外的な一寸した圧力に、すぐ屈従するように仕つけた。無責任に変転される境遇に、批判なく・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・外部の力に無判断に屈従する習慣を、熱心に日本人民の第二の天性としようとしたのは、何者であっただろうか。今日、婦人のモラルの失墜を嘆くならば、その根本の原因をなした此等の戦争犯罪支配者こそ、先ずきびしく人民の批判を受けるべきである。 ・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・ 母は、今の世の中のしきたりにおとなしく屈従して暮すには強く、しかし強く社会的に何事かを貫徹して生きるためにはまだ弱かった。或る意味では世間知らずで家庭にだけ根をおいた感傷的な、そうかと思うと打算的な女性であった。正当なはけ口を見出せな・・・ 宮本百合子 「母」
・・・その痛苦から屈従させようと試みられた。ひろ子にしろ、つかまる度に、女の看守長にまで云われることは、重吉の妻になっているな、ということだった。一層軟かく重吉の膝に頭を埋めながら、ひろ子は、「げんまん」 重吉に向って小指をさし出した。・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・現代ブルジョア・インテリゲンツィアの婦人が進歩的な外見にかかわらず、内実強力に抑圧をうけている封建性そのものへの屈伏であることを、作者はそれを正面からとりあげなかったことによって明瞭にせず、同時にこの屈従は宿命的なものではなくて、プロレタリ・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・ 封建性がのこっているために、目前の権力に屈従しやすい日本の習慣の上へ、第一ヒント、第二ヒント、ヒントで導かれる心理習慣に抵抗しなかったら、わたしたちの生活と文学の自立、独立性とはどうなって行くことだろう。 小説は、よんでいる間だけ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ 未来の社会に向って文化生産者であるという明白な自覚こそが文学でいえば作家に、ジャーナリズムに屈従した存在でない責任感と信念を与える。ただ、字を殖えている職工ではないのだ、という自覚が、市民権の一つの当然な発言として、労働者に闇紙と悪出・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・偉大なる者への屈従は歓喜を以て迎えられ、弱小を征服することは大いなる愛の力を以てせられる。ここに偉大なる者の偉大なるゆえんは最も明らかにせられる。そうして弱小なる者の生活が人性の上に持っている意義もまた明瞭になる。 自分はなお日々に悔い・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・物質の執着は霊の権威を無視し肉の欲の前に卑しき屈従をなす。米と肉と野菜とで養う肉体はこの尊ぶべき心霊を欠く時一疋の豕に過ぎない、野を行く牛の兄弟である。塵よりいでて塵に返る有限の人の身に光明に充つる霊を宿し、肉と霊との円満なる調和を見る時羽・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫