・・・ こういう人間性の分裂と矛盾が、現代の権力あるものの避けがたい立場だというならば、最近の百二十年たらずのうちに、権力そのものの実質がゲーテの讚えたような属性をまったく失ってしまっている事実を物語る。ゲーテは「ファウスト」第二部で、より大・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・合法、非合法はその国の状態によるのであって、決して共産党そのものの本質的属性ではない。清水は、「日本共産党は非合法の秘密結社でアリマシテ云々」と他の誰かの調書にあるとおり、口授を承認させようとするのである。又、「働く婦人」が共産党の宣伝の道・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・利己主義が日本人という民族の属性なのだろうか。そうは思えない。それが、生存する環境の悪条件に左右される自己防衛の牙であることは、著者そのひとが脱出の夜良人に向っていった言葉であきらかにされている。日夜顔をあわせている女同士で自分が八百円に売・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・は、作品に於ける内容と形式との特殊な統一の仕方から生じるもの、芸術作品にとって芸術性は先行的にあり得るものではなくて、芸術作品が芸術作品となってゆく成立の条件に根ざしたものであり、芸術的価値の本質的な属性をなすものであるという、芸術そのもの・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・芥川 敗北の文学 「小ブルジョアジイの諸属性の中で「自我に関する思索」こそが基本的な一線であることを知るのである。」p.16 しかし、小ブルジョアジーの世界観の枠内にとどまっている以上、思索する「自我」を救い出し・・・ 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・ロレタリア文学との対立の時期に於ても、純文学の自我は、その自我の歴史的な成長の過程として、よりひろい動的な社会の客観的現実としての関係の中に自我を見る目を育てようとはせず、反対に個性という自我の一つの属性の範囲に人間の自我の可能性をちぢめて・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな解釈とで、神話の男神、アポロー、パンまたは、キリスト教の聖徒などを描いた他、或る女流画家の特殊な稟性によって、ユニクな属性を賦与された男子の肖像が在るだろうか。私は自分の狭い知識では不幸にして一・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・しかも、それは、文学に於けるいかなる分野が、素質が、属性が、総ゆる文学の方向から共通に考察されねばならないか。これがわれわれの新しい問題となるべきであろう。「われわれには、そんな暇はない。」と云うものは云うであろう。しかし、文学はそ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・官能表徴は感覚表徴の一属性であってより最も感性的な感覚表徴の一部である。このため官能表徴と感覚表徴との明確な範疇綱目を限定することは最も困難なことではあるが、しかし、少くとも清少納言の感覚は、あれは感覚ではなく官能が静冷で鮮烈であったのだ。・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫