・・・ 何卒よろしくおつたえ下さいませ 八日百合子 高根包子様 一九四七年五月二十七日〔岡山市内山下四番地 岡山県第一岡山中学校政経部宛 駒込林町より〕一、民主的な社会生活の方法を身につける、ということが最も重・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ 私が山下で降りるまでその男は私の前を動きませんでした。男の動かないと同じ様にそのどんづまりまで女王の様なツンとした態度をゆるませませんでした。 電車を降りて車にのった時、私はその男に勝った様にあの男の時々したうだうだな様子を思って・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・列は改札口にぎっしりつまって構内から溢れ、蜿蜒と道路を流れて山下の永藤パンの前まで続いた日があったそうだ。何とも云えない光景だったとそれをみた人が印象をつたえた。予定した汽車に乗れないどころか、いつの汽車にのれるか当もないのに、しかし列をは・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・ 今度は、低い、震える声で、「山下からステーションは駄目。」 猶、詳細を訊こうとすると、「皆、焼けちまったよ。お前、ひどいのひどくないのって。――」 五十を越した労働者風のその男は、俄に顎を顫わせ、遠目にも涙のわかる顔を・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫