・・・ 階下へ降りてみると、門を開放った往来から見通しのその一間で、岩畳にできた大きな餉台のような物を囲んで、三四人飯を食っていた。めいめいに小さな飯鉢を控えて、味噌汁は一杯ずつ上さんに盛ってもらっている。上さんは裾を高々と端折揚げて一致した・・・ 小栗風葉 「世間師」
一 深川八幡前の小奇麗な鳥屋の二階に、間鴨か何かをジワジワ言わせながら、水昆炉を真中に男女の差向い。男は色の黒い苦み走った、骨組の岩畳な二十七八の若者で、花色裏の盲縞の着物に、同じ盲縞の羽織の襟を洩れて、印・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ しかしこの群の人々に、この岩畳な老人が目に留まらなかったのではない。今朝から気は付いている。みんなが早足に町の敷石を蹈み締め蹈み締めして歩いていた時に気が付いている。あの冬になってもやはり綺麗に見える庭の後に、懐かしげな立派な家が立ち・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・の枝に 宿ると一所にかしの木は 又黄金色にかがやいて 澄んだ御空にそびえますみんな木の葉が散りました、けど御らんなさいかしの木はキリキリシャンと立ってます骨が目立って岩畳な幹と枝とをむきだして男々し・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫