・・・ 浜べに近い、花崗石の岩盤でできた街路を歩いていると横手から妙な男が自分を目がけてやって来る。藁帽に麻の夏服を着ているのはいいが、鼻根から黒い布切れをだらりとたらして鼻から口のまわりをすっかり隠している。近づくと帽子を脱いで、その黒い鼻・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・これは山腹に露出した平滑な岩盤が適当な場所から発する音波を反響させるのだという事は今日では小学児童にでもわかる事である。岩面に草木があっては音波を擾乱するから反響が充分でなくなる事も多くの物理学生には明らかである。しかしこれらの・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 二十三本の発破が、岩盤の底に詰められて、蕨のように導火線が、雪の中から曲った肩を突き出していた。 五人の坑夫、――秋山も小林も混って――は、各々口にバットを喞えて、見張からの合図を待っていた。 何十年も、殆んど毎日のように、導・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
出典:青空文庫