・・・モンテ・ファルコの山は平野から暗い空に崛起しておごそかにこっちを見つめていた。淋しい花嫁は頭巾で深々と顔を隠した二人の男に守られながら、すがりつくようにエホバに祈祷を捧げつつ、星の光を便りに山坂を曲りくねって降りて行った。 フランシスと・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・九十の老齢で今なお病を養いつつ女の頭領として仰がれる矢島楫子刀自を初め今は疾くに鬼籍に入った木村鐙子夫人や中島湘烟夫人は皆当時に崛起した。国木田独歩を恋に泣かせ、有島武郎の小説に描かれた佐々木のぶ子の母の豊寿夫人はその頃のチャキチャキであっ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・のために崛起したので、坪内君莫かっせばあるいは小説を書く気には一生ならなかったかも知れぬ。また『浮雲』の如き世論『書生気質』以上であるが、坪内君の合著の名でなかったなら出版する事は出来なかったのだ、出版しても恐らくアレほどに評判されなかった・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・ かかる折から卒然崛起して新文学の大旆を建てたは文学士春廼舎朧であった。世間は既に政治小説に目覚めて、欧米文学の絢爛荘重なるを教えられて憧憬れていた時であったから、彼岸の風を満帆に姙ませつつこの新らしい潮流に進水した春廼舎の『書生気質』・・・ 内田魯庵 「四十年前」
出典:青空文庫