・・・川は水がなかったんで、その川床にずらりと並んで敵の眼を暗ました。鳥渡でも頸を突き出すと直ぐ敵弾の的になってしまう。昼間はとても出ることが出来なかった、日が暮れるのを待ったんやけど、敵は始終光弾を発射して味方の挙動を探るんで、矢ッ張り出られん・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・地震の割れ目か、昔の川床か、もっとよく調べてみなければ確かな事はわからない。線にあたった人はふしあわせというほかはない。科学も今のところそれ以上の説明はできない。 震央に近い町村の被害はなかなか三島の比ではないらしい。災害地の人々を思う・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・蛇行の波長が河床の幅に対して長いような場合に特にこれが問題になるであろう。これは地形学者の再検討をわずらわしたい問題である。 以上述べたものの多くは、言わば「並行縞」と呼ばれるべき形態のものであったが、このほかになお「放射縞」と言わるべ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・しかしタリム川の急に曲がった所から東のほうへかけてまさしく干上がった川床らしいもののある事に注意した。一九〇〇年に、もう一度そこへ行ってこの旧河床の地図を作り、これが昔のタリムの残骸である事を結論した。それからもう一度ロプ・ノールへ行ってよ・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・一九〇〇年に、もう一度そこへ行ってこの旧河床の地図を作り、これが昔のタリムの残骸である事を結論した。それからもう一度ロプ・ノールへ行ってよく観察して見ると、水がきわめて浅くそうしてだんだんに沈積物で埋まりつつあるらしく見えた。そこから砂漠を・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・見ると、もうじつに、金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ、その流れのまん中に、ぼうっと青白く後光の射した一つの島が見えるのでした。その島の平らないただきに、立派な眼もさめる・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・実際こんなに川床が平らで水もきれいだし山の中の第一流の道路だ。どこまでものぼりたいのはあたりまえだ。向うの岸の方にうつろう。「先生この岩何す。」千葉だな。お父さんによく似ている。〔何に似てます。何でできてますか。〕だまっている。〔わ・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・止めて 汽車の煙りを見守れる男田舎道乗合馬車の砂煙り たちつゝ行けば黄の霞み立つ赤土に切りたほされし杉の木の 静かにふして淡く打ち笑む白々と小石のみなる河床に 菜の花咲きて春の日の舞ふ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ サラサラした水は快く彼等の軟い胸毛を濡して、鯱鉾立ちをする様にして、川床の塵の間を漁る背中にたまった水玉が、キラキラと月の光りを照り返した。 バシャバシャと云う水のとばしる音、濡れそぼけて益々重くなった羽ばたきの音、彼等の口から思・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・ その日は暮れ方から風がやんで、空一面をおおった薄い雲が、月の輪郭をかすませ、ようよう近寄って来る夏の温かさが、両岸の土からも、川床の土からも、もやになって立ちのぼるかと思われる夜であった。下京の町を離れて、加茂川を横ぎったころからは、・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫