・・・名古屋の支店へ左遷されたのである。ことしの年賀状には、百合とかいう女の子の名前とそれから夫婦の名前と三つならべて書かれていた。銀行員のまえには、三十歳くらいのビイル会社の技師に貸していた。母親と妹の三人暮しで、一家そろって無愛想であった。技・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・が現われ、それがびっこをひくので手にさげた燭火のスポットライトが壁面に高く低く踊りながら進行してそれがなんとなく一種の鬼気を添えるのだが、この芝居では、そのびっこを免職させてそれを第二幕の酒場の亭主に左遷している。そうしてそこではびっこがな・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・と云う一寸ばかりの短い論説だか何だか分らないようなのがあって、一番おしまいに道真左遷の事を論ズと云うのがあった。割合に下らないもんだった。それから「約百記」を半分ほどよんだ。□百□(の信仰の力の強いのにビックリした。 どんな苦しい事に出・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・仙洞がまだ御位におらせられた永保の初めに、国守の違格に連座して、筑紫へ左遷せられた平正氏が嫡子に相違あるまい。もし還俗の望みがあるなら、追っては受領の御沙汰もあろう。まず当分はおれの家の客にする。おれと一しょに館へ来い」 ―・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・「※※雕朽木、老大免左遷」の句がある。 わたくしの多少社会に認められたのは文士としての生涯である。抒情詩においては、和歌の形式がいまの思想を容るるに足らざるをおもい、また詩が到底アルシャイスムを脱しがたく、国民文学として立つゆえんにあら・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫