・・・ 父はこんな差出口をしていたが、その言葉がだんだん荒々しくなったと思うと、突然「ええ」と言って彼から紙をひったくった。「そのくらいのことができんでどうするのか」 明らかと怒号だった。彼はむしろ呆気に取られて思わず父の顔を見た。泣・・・ 有島武郎 「親子」
・・・もし誤って無思慮にも自分の埓を越えて、差し出たことをするならば、その人は純粋なるべき思想の世界を、不必要なる差し出口をもって混濁し、なんらかの意味において実際上の事の進捗をも阻礙するの結果になるだろう」と。この立場からして私は何といっても、・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・遂に自分のようなものでも差し出口をきかなければならないような事になるのはどういう訳であろう。 ここまで書いて来て振り返ってみると自分ながら随分臆面もなくよくこれだけ書いたものだと思う。しかし自分として云いたいと思う事はまだなかなか十分の・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
出典:青空文庫