・・・のみならず、婦人に向っても、何等の差異なしに開かれて居る生活の道程は、我国の婦人の強いられる極端な謙遜も卑屈さも味わせません。 彼等は、仕たい勉強が出来、生きたい形式で生き、愛すべき者を愛す権利を持って居ります。 此の生きたい形式で・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 芸術家の個性により、微妙な色と角度との差異はあっても等しく内に、何等かの調和律を持たないものは無かろう。真心を以て芸術に参するものは、自己に許された範囲に於て、最大・最高の諧調を見出したいという祈願を、片時も捨てかねるものと思う。然し・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・私共が箇性的差異として、各自の国民性を持ちながらも、世界人として生活し始めた今日、世界各処に発生し、発達した種々な生活意識、様式を、悉く、人の価値、人の理想と云う眼界にまで敷衍して考えたいと思います。 故に、或る観念に刺衝せられた場合の・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 隅から隅までたんのうした彼女は、今までの周囲と比較すれば、問題にもならないほどの趣味性の差異が齎らすどこともいわれない大らかな雰囲気のうちに、ホコッと眼を瞑り、頭を垂れて浸って行ったのである。 不自然な重圧をようようとりのけられた・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 日本のように、資本主義独裁と白色テロールの旺盛なところで、階級闘争は激化し、イディオロギー的差異は有無を云わせず作家の陣営を決定しつつある。既に一九二七年、右翼的固執を示した労芸の内部の情勢が三年間停止している筈はない。前田河が発表す・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・は、内容に、種々な価値の問題、教育、宗教に対する考察、或は子供と大人の世界の差異に対する精密な観察等が含まれているにも拘らず、芸術品として、読者の心に喚起した創造的な共鳴は、矢張り、貴女の御作に接せずには得られない、一種の人格的精神感銘であ・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・つまり、芸術家と普通人との間には、如何に、物象の観方に純粋さの差異があるか、又、その差異が、一種常套的な道徳感のようなものと結合して、一般人の胸からは、如何程抜き難いものになって居るか、と云うことの反省である。 事なら事を、其自体、人間・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・これまでブルジョア作家、労農派の社会民主主義作家たちが必死に守って来た作家としての個性の差異などというものは、めいめいがただどんな音色でそれぞれのファッショの歌をうたうかというだけの僅かな違いを示す以外、無力な意味ないものとなってしまった。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感覚派の多くの作品は古き頭脳の評者から「拵えもの」なる貶称を冠せられる・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫