・・・金モール細工をする人、刺繍をする人、さけた布地をつぐ専門家、大体それは女の仕事であった。或は、立って働くには不便な不具の男の仕事とされた。アンデルセンの「絵のない絵本」の一番初めの話は、高い屋根裏の部屋で朝から晩までモール刺繍をして暮してい・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・今思えば、白いレース・カーテンのような布地をふわり長くこしらえて、カフスのところとカラーのところが水色の絹うち紐でしぼられ、その紐が飾り房としてたれていた。その服を着て、海老茶色のラシャで底も白フェルトのクツをはいた二十九歳の母が、柔かい鍔・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・消費組合売店ではラシャの布地まで扱っている。托児所、学校、革命の家、病院は建築中だ。案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花の咲いたひろい通路を歩いていたら、こっちでは電熱炉で鉄を溶かしている鍛冶部の向い側のどこかで、嬉しそうなピア・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・その人形は宜川のソ同盟の屯所へ行って、にこにこ笑う兵士に地下室へ案内されて、そこからもらってきた布地でつくられた。その布を見た同室の人が、あら、いいわねえ、みんなで早速人形つくりをはじめましょう、といったとき、「みんなですって、この布は私達・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・同じ一枚のワンピースがほんとうに若い女性の生活をいたわり働く婦人の身だしなみをいたわって、そのように特別に染められた布地で作られているなら、どんなに若い人たちの心の楽しみがふえるでしょう。いろいろな型の切りかえというようなことがいわれるけれ・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ 余り奇麗な布地でもあると、私は呉服屋の前に立った。 異国風な豊麗さで細々化粧品や装身具などを飾った窓に来かかると、私は、堪能するまで其等の一つ一つを眺める。 本屋の前に出ると、私の眼には、微に意志の光めいたものが浮んだ。表の新・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・海市でこしらえたチェックの布地 この胴のところ、バンドの幅ほどくくれて居たの何ともたまらず「仕様がないじゃありませんか じゃ、この幅をひだによせて右左に一本ずつたたみましょう、そうすると、真中に合わせめの線があってなるか・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・で、マヤコフスキーは大胆に、ソヴェトの建設事業に非同情的な外国人と、いい布地の外套を着た外国人とさえ見ればペコつく対外文化連絡協会案内人の卑屈さを、漫画化してやっつけている。 マヤコフスキーが、ソヴェトを愛し、その発達を熱望し、それを自・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 二三度続けて散歩するうちに、何となく感じたのだが、神楽坂というところは、何故ああ店舗も往来も賑かで明るいくせに、何処か薄暗いような、充分燦きがさし徹し切れないようなほこりっぽいところがあるのだろう。布地にでも例えると、茶色っぽい綿モスリン・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 羽織の袖口が余りバラバラおそろしくなるので、今着ているのは、外側から同じような布地でくるみぶちをとってしまった。細かい絣だから余りみっともなくない。 そういう羽織を着て、体の半分をくるむような大前掛をかけて、帯は御免蒙って兵児帯で・・・ 宮本百合子 「働くために」
出典:青空文庫