・・・――それからオーヴァが欲しいっていうけれどとても駄目だから、一つ布地で買おうっていっているんです――ね、自分で縫うね」「もち! 縫うわ、×子うまいもんよ」「ハハハ、手袋はもう買ったからいいね」「ええ結構!」「――私は貧乏にな・・・ 宮本百合子 「百銭」
・・・最後に来る一つは濡れて光る鼠色の布地を帆に張りあげているようだ。 他に船はない。 その三艘だけが、雲のために黝み始めた海上を、暗紅色の帆、オリーヴ色の帆、濡れた鼠の帆と連なって、進行して行く。 それ等が始め色が変ったと同じ順序で・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・マリアは全部白ではあるが、布地とつやの様々の変化を美しくあしらった部屋着を着ている。「バスチャン・ルパアジュの目はそれを見てうれしそうに見張った。――おお、私に描くことができたら! 彼はいう。そうして私も! もうだめ、今年の画は!」 十・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・例えば外套、防寒靴、布地等をそういう組織で配給している。 今ソヴェトは重工業に力を入れているから軽工業の生産品はまわり切れない。その代り忠実に生産に従事して働いているものは食糧及び軽工業の生産品にも左程ひどく欠乏を感じずに暮している。・・・ 宮本百合子 「露西亜の実生活」
出典:青空文庫