・・・のみならずちょうど寝棺の前には若い本願寺派の布教師が一人、引導か何かを渡していた。 こう言う半三郎の復活の評判になったのは勿論である。「順天時報」はそのために大きい彼の写真を出したり、三段抜きの記事を掲げたりした。何でもこの記事に従えば・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・これによって僕は宗教の感化力がその教義のいかんよりも、布教者の人格いかんに関することの多いという実際を感じ得た。 僕が迷信の深淵に陥っていた時代は、今から想うても慄然とするくらい、心身共にこれがために縛られてしまい、一日一刻として安らか・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・その有様を見ているうちに、さすがに私も、この弟子たちと一緒に艱難を冒して布教に歩いて来た、その忍苦困窮の日々を思い出し、不覚にも、目がしらが熱くなって来ました。かくしてあの人は宮に入り、驢馬から降りて、何思ったか、縄を拾い之を振りまわし、宮・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・日本に於ける基督教布教史は当時乱世の有様に深く鋭く人生の疑問も抱いた敏感な上流の若い貴公子、女性などの無垢な傾倒と、この浦上の村人のような幼児の魂を持った人々の献身とによって、如何に美しく、如何に悲しくされているかしれないと思う。数多く来た・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫