・・・あるいは平凡な織物の帯地を見ているようなもので、綺麗は綺麗だがそこに何らの感興も起らなければ何らの刺戟も受けない。これに反して古来の大家と云われるほどの人の南画は決してそんなものではない。自分の知っている狭い範囲だけでも蕪村、高陽のごとき人・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ じゃれる品物の中でおもしろいのは帯地を巻いておく桐の棒である。前足でころがすのはなんでもないが棒の片端をひょいと両方の前足でかかえてあと足でみごとに立ち上がる。棒が倒れるとそれを飛び越えて見向きもしないで知らん顔をしてのそのそと三四尺・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・こういう物に対する好尚と知識のきわめて少ない自分は、反物や帯地やえりの所を長い時間引き回されるのはかなりに迷惑である。そしてこれほどまでに呉服というものが人間に必要なものかと思って、驚き怪しんだ事も一度や二度ではない。「東京の人は衣服を食っ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
出典:青空文庫