・・・は、一面において内面的と考えられると共に、一面に社会的、常識的とも考えることができる。概念に制約せられない直感である。それは自己自身を表現する実在、歴史的実在に対する「サンス」である。そういう意味においては、かかる立場から世界を見るのはモン・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・でさへも、相当に成育した一般の文化常識と、特に敏感な詩人的感覚とを所有しない読者にとつては、決して理解し易い書物ではない。 ニイチェの理解に於ける困難さは、彼の初期に於ける少数の著書論文を除いて、その後の者が多くアフォリズムの形式で書か・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・だがその瞬間に、私の記憶と常識が回復した。気が付いて見れば、それは私のよく知っている、近所の詰らない、ありふれた郊外の町なのである。いつものように、四ツ辻にポストが立って、煙草屋には胃病の娘が坐っている。そして店々の飾窓には、いつもの流行お・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 命がけの時に、痛快だなんてのは、まったく沙汰の限りです。常識を外れちゃいけない。ところが、 ――理屈はそれでもいいかしれないが、監獄じゃ理屈は通らないぜ。オイ、――なんです。 監獄で考えるほど、もちろん、世の中は、いいものでも・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・斯く無造作に書並べて教うれば訳けもなきようなれども、是れが人間の天性に於て出来ることか出来ぬことか、人間普通の常識常情に於て行われることか行われぬことか、篤と勘考す可き所なり。実際に出来ぬことを勧め、行われぬことを強うるは、元々無理なる注文・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・尚の門に入れんとするも、言う可くして行わる可らざるの所望なれば、我輩は今後十年二十年の短日月に多きを求めず、他年の大成は他年の人の責任に遺して今日は今日の急を謀り、兎にも角にも今の女子をして文明普通の常識を得せしめんと欲する者なり。物理生理・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・それは常識でわかります。人間から身体の構造が遠ざかるに従ってだんだん意識が薄くなるかどうかそれは少しもわかりませんがとにかくわれわれは植物を食べるときそんなにひどく煩悶しません。そこはそれ相応にうまくできているのであります。バクテリヤの事が・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そして、現代の常識として忘れてならぬ一つのことは、愛にも階級性があるという、無愛想な真実です。〔一九四八年二月〕 宮本百合子 「愛」
・・・なる墓標的常識を突破した、喜ばしき奔騰者の祝賀である。より深き認識への感覚 より深き認識へわれわれの主観を追跡さす作物は、その追跡の深さに従ってまた濃厚な感覚を触発さす。それはわれわれの主観をして既知なる経験的認識から未知な・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ キリストの復活を認容することのできなかった物質論は今や人類の常識である。神が七日にして世界を創造したという物語のごときは「物語」以上に何の権威をも持たない。処女懐胎は狂信者の幻想に過ぎぬ。神の子の信仰は象徴的の意味においてさえも形而上・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫