・・・と傲語したのは最も痛快なる幕切れとして当時の青年に歓呼された。尾崎はその時学堂を愕堂と改め、三日目に帝都を去るや直ちに横浜埠頭より乗船して渡欧の途に上った。その花々しい神速なる行動は真に政治小説中の快心の一節で、当時の学堂居士の人気は伊公の・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ざまのよいものではなかった。幕切れの大見得切っても、いつまでも幕が降りずに、閉口している役者に似ていた。かれは仕様がないので、舞台の上に身を横え、死んだふりなどして見せた。せっぱつまった道化である。これが廃人としての唯一のつとめか。かれは、・・・ 太宰治 「花燭」
・・・いいかい、オリガは、センチメントおさえて、おさえて、おさえ切れなくなる迄おさえて、幕切れで、どっとせきあげる、それだけ心掛けて居ればいいのだ、あとは尾沼君の言うこと信仰し給え、あれは偉い男だ。それから、ほかの役者の邪魔をしないように、ね。三・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 終末の幕切れに教授の死を弔う学生の「アーメン」にいたっては、蛇足にサボをはかせたようなものではないかと思われた。 大学教授連盟とかいう自分にはあまり耳慣れない名前の団体から、このような芝居は教育界の神聖を汚すものだと言って厳重な抗・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 選挙をまえにして民自党はどんなにいい評判をとりたいでしょう、ところがおきの毒さまにも十三日の新聞にあらわれた泉山蔵相の事件のようなことがあらわれて最後の幕切れとなった。要するに吉田首相とその乾分は世界のブルジョア政治家も裏面でしかあら・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・などは、早苗姫が自殺してからの信玄の心理的経路が鮮明に描かれていなかったらしい為に、肝心の幕切れで、信玄と云う人格、早苗姫の死が、一向栄えないものになったように見える。 作者は、所々で、信玄を、英雄的概念から脱した人間らしい一性格として・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 場面場面は十分観衆をひきつけているらしいのに、いよいよ久作も工場へ入る度胸が据って目出度しの幕切れの拍手は、案外にまばらであった。これは明るい幕切れであり、或る意味でのハピイ・エンドなのだが、今日の観衆の生活感情のどういうものがそのハ・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・最後の幕切れに、昔からの「一同仰天」の型で一応きまる。がメイエルホリドはそこで幕にしない。つづけて直ぐ市長が発狂する。ピーピーつづけざま呼笛が鳴る。狭窄衣がとび出す。赤いプラカートがスルスルと舞台一杯におりて来て、舞台からとびおりて俳優が観・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫