・・・この旱天を凌いで、とにもかくにも生きつづけて来た一二の秋草の姿がわたしの眼にある。多くの山家育ちの人達と同じように、わたしも草木なしにはいられない方だから、これまでいろいろなものを植えるには植えて見たが、日当りはわるく、風通しもよくなく、お・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・ これは後に知ったことであるが、仮名垣魯文の門人であった野崎左文の地理書に委しく記載されているとおり、下総の国栗原郡勝鹿というところに瓊杵神という神が祀られ、その土地から甘酒のような泉が湧き、いかなる旱天にも涸れたことがないというのである。・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ 今日の電力不足は旱天が大半の理由でありましてと、勝逓相の答弁が始められると、議場にどっと笑いがおこり、傍聴席も何となし口元をほころばした。 藤原銀次郎という名に対して、あの演壇に立っての柔らかな声、物腰とは、会社の会議じゃないのだ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫