・・・それは、予備条件として在来の社会機構から生じた各個人間の極く平俗な生存競争の必然を認めつつ、だが、窮極のところ、人生の意義というものは、人間対人間の目前の勝敗にあるのではない、「持って生れたものを誤らないように進めてゆく、それが修業」であり・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・私はこの頃物を書くのに、平俗は忌避せぬが、卑俚には甘んぜない。それは人の平俗だとしている今言で荘重な意味も言いあらわされると思って、今言を尊重すると同時に、今言を使うものが失脚して卑俚に堕ちるに極まっているとは思わぬからである。兎に角私の翻・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・しかし代わりに与えられたものは、きわめて常識的な平俗な、家常茶飯の「真実」に過ぎなかった。こういうことはいかなる意味でも新発見ではない。昔から数知れぬ人々が腹のなかで心得ていた。それを心得ていないのは千人に一人か百人に一人の理想家や敬虔家だ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫