・・・「平家物語」「方丈記」西鶴などを盛にうつしたり、口語訳にしたりして表紙をつけ手製本をつくった。与謝野晶子の「口語訳源氏物語」のまねをして「錦木」という長篇小説を書いた。森の魔女の話も書いた。両親たちは自分たちの生活にいそがしい。家庭・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 母が読書好きであった関係から、家の古びた大本箱に茶色表紙の国民文庫が何冊もあって、私は一方で少女世界の当選作文を熱心に読みながら、ろくに訳も分らず竹取物語、平家物語、方丈記、近松、西鶴の作品、雨月物語などを盛によんだ。与謝野晶子さんの・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
・・・秀麿は例の笑を顔に湛えて、「僕は不平家ではありません」と答えた。どうもお父う様はこっちが極端な自由思想をでも持っていはしないかと疑っているらしい。それは誤解である。しかしさすが男親だけにお母あ様よりは、切実に少くもこっちの心理状態の一面を解・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 表通は中くらいの横町で、向いの平家の低い窓が生垣の透間から見える。窓には竹簾が掛けてある。その中で糸を引いている音がぶうんぶうんとねむたそうに聞えている。 石田は座布団を敷居の上に敷いて、柱に靠り掛かって膝を立てて、ポッケットから・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・詩人では南禅寺の惟肖和尚が、二、三百年このかた、比べるもののない最一の作者とされている。平家がたりでは、千都検校が、昔より第一のもの、二、三百年の間に一人の人である。碁うちでは、大山の衆徒大円。早歌では、清阿、口阿。尺八では、増阿。いずれも・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫