・・・しかし、民主的な文学なら、必ずそこを基盤としなければならない民衆の健やかで平明で条理のとおった現実的判断が、この試作の基調となっています。読んで、アクのつよい、いやな後味は一つもなかったでしょう? 小さいけれども、まともなものです。『新日本・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・今日の空気のように平明な心が、微かながら果もなく流れ動く淋しさである。 隅から隅まで小波も立てずに流れる魂の上に、種々の思いが夏雲のように湧いて来る。真個に――。考えではない、思いである。 歌を詠みたい。けれども私に歌は出来ない。其・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・作者自身としては題材のむずかしさ、苦しさに力の限りとっくんでゆく努力に自覚をあつめているうちに、この作家がこれまでかいて来た平明で、まとまりよくおさめられた作に見られなかった苦渋をにじませた。常識と分別、ひとがらのかしこさがくつがえされて、・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・猪俣氏の平明な健康な常識は、ソ連における政治経済事情の歴史的推移の過程の要所にふれつつ、トロツキィーが「もしその間の事情を『科学的に評論』することが出来たならば、恐らく彼はこの『裏切られた革命』を書きはしなかったであろう。『革命』は彼自身に・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 山本有三氏の文章が、平明であろうという特徴は、この作者のねうちの一つとして既に十分評価されている。もう一歩迫って、文学的に見ると、この作者の持つ文章の平明さは、鮮明な描写によって読者の心にひき起される立体的な溌剌たる形象の鮮やかさでは・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・これだけの事を完成するのは、極て容易だと思うと、もうその平明な、小ざっぱりした記載を目の前に見るような気がする。それが済んだら、安心して歴史に取り掛られるだろう。しかしそれを敢てする事、その目に見えている物を手に取る事を、どうしても周囲の事・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫