・・・私は学生への同情の形で、その平板と無感激とをジャスチファイせんとする多くの学生論、青年論の唯物的傾向を好まぬものだ。夢見ると夢見ぬとはその環境にあるのでなく、その素質にあるのだ。王子が必ずしも夢見はしない。が大工の息子もまた夢見る。如何なる・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 四 恋愛――結婚 恋愛のような人生の至宝に対しては、私たちはでき得る限り、現実生活の物的、便宜的条件によって、妥協的な、平板なものにすることをさけて、その精神性と神秘性とを保存し追究するようにしなければならぬ。心霊・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 色彩はその使用が適切でなければ視覚的映像の効果を補充するよりもむしろ減殺するのは何ゆえかというと、色彩のために明暗の調子が弱められて画面の深さが浅くなり従って平板に見えやすくなる。これは西洋画をけいこした人のいずれもが経験したことであ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これらの構図に現われた空間的幾何学的構成美の鋭敏な感覚と、それに対応すべき人間の心理的現象の確実な把握とは、要するにこれら映画の作者がすぐれた芸術家であるという平板な事実を証明するものである。芸術家でない凡庸作者がいたずらに皮相的模倣を志し・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・露骨な真実、平板な虚欺、その二つの世界の境界に中立地帯のようにしかも高次元の空間に組み立てられた俳諧の世界がある。実と虚と相接するところに虚実を超越した真如の境地があって、そこに風流が生まれ、粋が芽ばえたのではないかという気がするのである。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・ 平板に円孔を穿ったものの伸長変形に関する理論と実験の結果を比べたものが学位論文となっている。今日でこそ珍しくないであろうが、当時ではかなりオリジナルな面白い試みであったと思われる。船舶工学方面の研究では、波浪による船のヨーイングに関す・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・しかしこの平板な野の森陰の小屋に日当たりのいい縁側なりヴェランダがあってそこに一年のうちの選ばれた数日を過ごすのはそんなに悪くはなさそうに思われた。 ついそんな田園詩の幻影に襲われたほどにきょうの夕日は美しいものであった。 長い・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・あるものは私の理性を愚弄するために作ったと思われますね。太功記などは全くそうだ。あるものは平板のべつ、のっぺらぽうでしょう。楠なんとかいうのは、誰が見たってのっぺらぽうに違ない。あるものに至っては、私の人情を傷けようと思って故意に残酷に拵え・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・文章は卑俗で平板である。 プロレタリア文学は、本質において、ブルジョア文学におけるように、芸術的小説と通俗小説との区別を持たない筈である。しかも、こういう作家たちが、全くブルジョア文学における通俗読物と等しい作物を革命後第十一年目のソヴ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・アナウンサア独特の、何事を報道しても平静を失わない、はっきりしているが職業的平板さの伴った声ではなかった。アナウンサアは、全波を禁止していたこれまでの軍事的権力がどんなに封建的なものであったかということ、そのために国民は自分達の生活の実状さ・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
出典:青空文庫