・・・それから銃を構えたまま、年下の男の後に立った。が、彼等を突殺す前に、殺すと云う事だけは告げたいと思った。「ニイ、――」 彼はそう云って見たが、「殺す」と云う支那語を知らなかった。「ニイ、殺すぞ!」 二人の支那人は云い合せたよ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・良平はもう好いと思ったから、年下の二人に合図をした。「さあ、乗ろう!」 彼等は一度に手をはなすと、トロッコの上へ飛び乗った。トロッコは最初徐ろに、それから見る見る勢よく、一息に線路を下り出した。その途端につき当りの風景は、忽ち両側へ・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・ この木樵りはわたしよりも年下です。」「冗談を言ってはいけません。」「いえ、冗談ではありません。わたしはこの木樵りの母親ですから。」 書生は呆気にとられたなり、思わず彼女の顔を見つめました。やっと木樵りを突き離した彼女は美しい、・・・ 芥川竜之介 「女仙」
・・・ さて、お妻が、流れも流れ、お落ちも落ちた、奥州青森の裏借屋に、五もくの師匠をしていて、二十も年下の、炭屋だか、炭焼だかの息子と出来て、東京へ舞戻り、本所の隅っ子に長屋で居食いをするうちに、この年齢で、馬鹿々々しい、二人とも、とやについ・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・他の先生方は皆な私より偉いには偉いが年下だ。校長さんもずッとお少い。 こんな相談は、故老に限ると思って呼んだ。どうだろう。万一の事があるとなら、あえて宮浜の児一人でない。……どれも大事な小児たち――その過失で、私が学校を止めるまでも、地・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・――あの、実は、今しがた、遠方のお客様から電報が入りまして、この三時十分に動橋へ着きます汽車で、当方へおいでになるッて事だものですから、あとは皆年下の女たちが疲れて寝ていますし……私がお世話を申上げますので。あの、久しぶりで宵に髪を洗いまし・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・つづいて年下の子が泣き出した。細君は急いで下りて行った。「あれやさかい厭になってしまう。親子四人の為めに僅かの給料で毎日々々こき使われ、帰って晩酌でも一杯思う時は、半分小児の守りや。養子の身はつらいものや、なア。月末の払いが不足する時な・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・ 三人の中のもっとも年下の丙は、空を見て考えていました。このとき、遠く北の方の海で汽笛の音がかすかに聞こえたのでありました。三人はまたその音を聞いて心の中でいろいろの空想にふけりました。「さあ話すよ。」と丙はいった。そのりこうそ・・・ 小川未明 「不死の薬」
・・・しまいには四人のほかにも年下の七つ八つぐらいの子供が三人も四人も後からついてきたのであります。しかるに太郎のほうはいつも一人でありました。太郎は路のまん中に立って勇敢に戦いました。こちらは、たとえおおぜいであったけれど、だれひとりとして進ん・・・ 小川未明 「雪の国と太郎」
・・・階下の主婦は女だてらとたしなめたが、蝶子は物一つ言わず、袖に顔をあてて、肩をふるわせると、思いがけずはじめて女らしく見えたと、主婦は思った。年下の夫を持つ彼女はかねがね蝶子のことを良く言わなかった。毎朝味噌しるを拵えるとき、柳吉が襷がけで鰹・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫