・・・ かような人格価値主義に対して幸福主義――自己の快楽の追求から社会の福利の増進にいたるまでの広汎な功利主義の倫理学が立つ。そのクライマックスはシヂウィックの「最大多数の最大幸福」の説である。幸福主義は初めは個人の感覚的快、不快から発祥す・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ HとSとの間に、かなり広汎な区域に亘って、森林地帯があった。そこには山があり、大きな谷があった。森林の中を貫いて、河が流ていた。そのあたりの地理は詳細には分らなかった。 だが、そこの鉄橋は始終破壊された。枕木はいつの間にか引きぬか・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・と呼ばれている人々の記述も広汎な世界の文学の領野にあらわれて来る日があるであろう。その研究の中にも、日本の文学を前進させる力がひそめられていることは疑いはないのである。〔一九三七年十二月〕・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・第二次大戦が勃発してから、エリカ・マンの反ナチ闘争と民主主義のためのたたかいはいっそう広汎におこなわれ、「生への逃亡」ではドイツの亡命知識人の物語を描いた。これらの人々がなにゆえにドイツを去らなければならなかったか、ということについて劇的に・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・新聞関係の人々は、各方面を広汎に、戦時中の社会生活の現実を目撃し、理性ある人間であるからには、それを批評せずにはいられなかった。しかし、その声は完く封じられていた。 今日、こういう過程を経た新聞人の進歩的な要素が、わたしたち人民の、ひろ・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・ いわゆる、マルクス・ボーイ、エンゲルス・ガールという名ができたほど、当時は広汎に小市民層の若い男女がマルクシズムをうけ入れた時代であった。 それらの急進的な若い男女があふれるような活力と感受性とを傾けて、学内の活動などに吸収されて・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・汚れをいとわないとか、古くさい結婚の形にしばられない感情の冒険とかいうことの現実をみると、結局は社会の経済生活の崩壊による女性の男への寄生的生活の合理化であり、広汎な売娼生活の合理化だということが分ります。 五 人民的・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・女の力は広汎な形で時局的な生産動員に向って招かれている。そして毎日、新聞で見る今日の銃後の女としての服装もエプロン姿から、たとえそれがもんぺいであろうと、作業服式のものであろうと、ひとしくりりしい裾さばきと、短くされたたもととをもって、より・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・民主主義革命とその文学とは、日本の全人民の、民主的な人間革命をこそ、広汎で重大な任務としてできる限りの熱意で達成してゆかなければならない。民主的で、人間的な社会進歩に対する善意を、普通の市民的標準の意志と肉体の堅忍とで保ってゆくことができる・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・がこれまでになく広汎な各層の読者によまれているという事実は何を語っているだろう。「伸子」のテーマが今日の日本の若い女性の全生活においてまだ解決されつくしていない社会的な課題であることが告げられているのではなかろうか、結婚や家庭の本質について・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
出典:青空文庫