・・・男親一人にがんばらせないという底意を諷してかかる。「時に土屋さん、今朝佐介さんからあらまし聞いたんだが、一体おとよさんをどうする気かね」「どうもしやしない、親不孝な子を持って世間へ顔出しもできなくなったから、少し小言が長引いたまでだ・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・る無学な田舎女と結婚していたし、いまさら汐田のその出来事に胸をときめかすような、そんな若やいだ気持を次第にうしないかけていた矢先であったから、汐田のだしぬけな来訪に幾分まごつきはしたが、彼のその訪問の底意を見抜く事を忘れなかった。そんな一少・・・ 太宰治 「列車」
・・・ 豚はそのあとで、何べんも、校長の今の苦笑やいかにも底意のある語を、繰り返し繰り返しして見て、身ぶるいしながらひとりごとした。『とにかくよくやすんでおいで。あんまり動きまわらんでね。』一体これはどう云う事か。ああつらいつらい。豚は斯・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 妙にぎごちない、皆が各自の底意を見抜きながら、僅かの自尊心で折れて出る者は独りもないような生活が彼女にとってもはやうんざりして来たとき、思いがけずに海老屋の番頭が、欲しいものを要求してくれと云って来たときには、もう何と云っていいかまる・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫