・・・梅水の主人夫婦も、座興のように話をする。ゆらの戸の歌ではなけれど、この恋の行方は分らない。が、対手が牛乳屋の小僧だけに、天使と牧童のお伽話を聞く気がする。ただその玉章は、お誓の内証の針箱にいまも秘めてあるらしい。……「……一生の願に、見・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・『わたしも帰って戦争の夢でも見るかな』と、罪のない若旦那の起ちかかるを止めるように『戦争はまだ永く続きそうでございますかな』と吉次が座興ならぬ口ぶり、軽く受けて続くとも続くともほんとの戦争はこれからなりと起ち上がり『また明日の新・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・へ凭れて腕組みするを海山越えてこの土地ばかりへも二度の引眉毛またかと言わるる大吉の目に入りおふさぎでござりまするのとやにわに打ちこまれて俊雄は縮み上り誠恐誠惶詞なきを同伴の男が助け上げ今日観た芝居咄を座興とするに俊雄も少々の応答えが出来夜深・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ ばか、冗談だよ、からかってみたのさ、東京は、こんなにこわいところだから、早く国へ帰って親爺に安心させなさい、と私は大笑いして言うべきところだったかも知れぬが、もともと座興ではじめた仕事ではなかった。私は、アパアトの部屋代を支払わなけれ・・・ 太宰治 「座興に非ず」
・・・たとえば昔からわが国でも座興として行なわれる影人形や、もっと進んでハワイの影絵芝居のようなものも、それが光と影との遊戯であるというだけでは共通な点がなくはない。またたとえばわが国古来の絵巻物のようなものも、視覚的影像の連続系列であるという点・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・宗匠はそこで涼の会や虫の会を開いて町の茶人だちと、趣向を競った話や、京都で多勢の数寄者の中で手前を見せた時のことなどを、座興的に話して、世間のお茶人たちと、やや毛色を異にしていることを、道太に頷かせた。「こんな物でもお気に入ったら」おひ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫