・・・山深く、里幽に、堂宇廃頽して、いよいよ活けるがごとくしかるなり。明治四十四年六月 泉鏡花 「一景話題」
・・・十 椿岳の畸行作さんの家内太夫入門・東京で初めてのピヤノ弾奏者・椿岳名誉の琵琶・山門生活とお堂守・浅草の畸人の一群・椿岳の着物・椿岳の住居・天狗部屋・女道楽・明治初年の廃頽的空気 負け嫌いの椿岳は若い時か・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ が、二葉亭のいうのは恐らくこの意味ではないので、二葉亭は能く西欧文人の生涯、殊に露国の真率かつ痛烈なる文人生涯に熟していたが、それ以上に東洋の軽浮な、空虚な、ヴォラプチュアスな、廃頽した文学を能く知りかつその気分に襯染していた。一言す・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・だが、こういうと馬鹿に難かしく面倒臭くなるが、畢竟は二葉亭の頭の隅のドコかに江戸ッ子特有の廃頽気分が潜在して、同じデカダンの産物であるこういう俗曲に共鳴したのであろう。これを日本国民が二千年来この生を味うて得た所のものと国民性に結びつけて難・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・この世界化は世界の進歩の当然の道程であって、民族の廃頽でもなければ国家の危険でもないのである。 イツの時代にも保守と急進とは相対立して互に相反撥し相牽掣する。が、官僚はイツでも保守的であって、放縦危激な民論を控制し調節するが常である。官・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・この意味において、既成の感情、常識を基礎とする、しかも廃頽的な大人の文学と対立するものでなければなりません。しかるに、指導的立場にあるものゝ無自覚と産業機関の合理化は、新興文学の出現とその発達を拒んでいます。 しかし、このことも、幾千万・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・たちの間にだけ残っているので、かえって滅亡のブルジョアたちは、その廃頽の意識を捨てて、少しずつ置き直っているのではないか。それゆえに現代は、いっそう複雑に微妙な風貌をしているのではないか。弱いから、貧しいから、といって必ずしも神はこれを愛さ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・ヒロインが病院の病室を一つ一つ見回って愛人を捜す場面で、階下から聞こえて来る土人女の廃頽的な民謡も、この場の陰惨でしかもどこかつやけのある雰囲気を濃厚にする。それから次の酒場で始終響いているピアノの東洋的なノクターンふうの曲が、巧妙にヒロイ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・人間に不可能で、しかも人間の可能性の延長であり人間の欲望の夢の中に揺曳するような影像を如実に写し出すというのも一つの芸術ではあるが、そうした漫画は精神的にはわれわれに何物をも与えず、ただ生理的にむしろ廃頽的な効果を与えるのみではないかという・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・もっともこの中立地帯の産物はその地帯の両側にある二つの世界の住民から見るとあるいは廃頽的と見られあるいは不徹底とののしられるかもしれない。しかし、結局それはすむ世界の相違であり、生まれついた人種の差別である。議論にはならない。 世界じゅ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
出典:青空文庫