・・・ 三年と五年の中にはめきめきと身上を仕出しまして、家は建て増します、座敷は拵えます、通庭の両方には入込でお客が一杯という勢、とうとう蔵の二戸前も拵えて、初はほんのもう屋台店で渋茶を汲出しておりましたのが俄分限。 七年目に一度顔を見せ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・新しく建て増した柱立てのまま、筵がこいにしたのもあり、足場を組んだ処があり、材木を積んだ納屋もある。が、荒れた厩のようになって、落葉に埋もれた、一帯、脇本陣とでも言いそうな旧家が、いつか世が成金とか言った時代の景気につれて、桑も蚕も当たった・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・が成金とか言った時代の景気につれて、桑も蚕も当たったであろう、このあたりも火の燃えるような勢いに乗じて、贄川はその昔は、煮え川にして、温泉の湧いた処だなぞと、ここが温泉にでもなりそうな意気込みで、新館建増しにかかったのを、この一座敷と、湯殿・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・塾では更に教室も建増したし、教員の手も増した。日下部といって塾のためには忠実な教員も出来たし、洋画家の泉も一週に一日か二日程ずつは小県の自宅の方から通って来てくれる。しかし以前のような賑かな笑い声は次第に減って行った。皆な黙って働くように成・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 夏の準備に、あっちこっちで路普請や建て増しをしている。その坂のところでも僅かな平地に日当り悪そうな三階建が立ちかかっていた。一雨で崩れそうなごろた石の石垣について曲り、道でないような土産屋の庇下を抜けると、一方は崖、一方に川の流れてい・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・丁度土曜日なので、花房は泊り掛けに父の家へ来て、診察室の西南に新しく建て増した亜鉛葺の調剤室と、その向うに古い棗の木の下に建ててある同じ亜鉛葺の車小屋との間の一坪ばかりの土地に、その年沢山実のなった錦茘支の蔓の枯れているのをむしっていた。・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・奥蔵を建て増し、地所を買い添えて、山城河岸を代表する富家にしたのはこの伊兵衛である。 伊兵衛は七十歳近くなって、竜池に店を譲って隠居し、山城河岸の家の奥二階に住んでいた。隠居した後も、道を行きつつ古草鞋を拾って帰り、水に洗い日に曝して自・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫