・・・ しかし怪しげな、国家主義の連中が、彼らの崇拝する日蓮上人の信仰を天下に宣伝した関係から、樗牛の銅像なぞを建設しないのは、まだしも彼にとって幸福かもしれない。――自分は今では、時々こんなことさえ考えるようになった。・・・ 芥川竜之介 「樗牛の事」
・・・自分は天主閣を仰ぐとともに「松平直政公銅像建設之地」と書いた大きな棒ぐいを見ないわけにはゆかなかった。否、ひとり、棒ぐいのみではない。そのかたわらの鉄網張りの小屋の中に古色を帯びた幾面かのうつくしい青銅の鏡が、銅像鋳造の材料として積み重ねて・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・思想家としてのマルクスの功績は、マルクス同様資本王国の建設に成る大学でも卒業した階級の人々が翫味して自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点において最も著しいものだ。第四階級者はかかるものの存在なしにでも進むところに進んで行・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・をそのままにしておいて、その中に自力をもって我々が我々の天地を新に建設するということはまったく不可能だということである。かくて我々は期せずして第二の経験――宗教的欲求の時代に移った。それはその当時においては前者の反動として認められた。個人意・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・言い古した言い方に従えば、建設の為の破壊であるという事を忘れて、破壊の為に破壊している事があるものである。戦争をしている国民が、より多く自国の国力に適合する平和の為という目的を没却して、戦争その物に熱中する態度も、その一つである。そういう心・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・如何なる大破壊も如何なる大建設も二十五年間には優に楽々と仕遂げ得られる。一国一都市の勃興も滅亡も一人一家の功名も破滅も二十五年間には何事か成らざる事は無い。 博文館は此の二十五年間を経過した。当時本郷の富坂の上に住っていた一青年たる小生・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・立したのは、無爵の原敬が野人内閣を組織したよりもヨリ以上世間の眼をらしたもんで、この新鋭の元気で一足飛びに欧米の新文明を極東日本の蓬莱仙洲に出現しようと計画したその第一着手に、先ず欧化劇の本舞台として建設したのが即ち鹿鳴館である。今でこそ樟・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・そしてこれから先き生きているなら、どんなにして生きていられるだろうかと想像して見ると、その生活状態の目の前に建設せられて来たのが、如何にもこれまでとは違った形をしているので、女房はそれを見ておののき恐れた。譬えば移住民が船に乗って故郷の港を・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・凡そその程度のものであるから、もとより享楽すべきものであって、これによって、旧文化の根底を改めて新文化をば建設しようなどゝ考えるのは、あまりに安価な考え方であると思われます。 独りドストイフスキイの作品ばかりでなく他の有名なる名作は、事・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・より善き社会の建設は、今日の児童によってのみなされるであろう。故に、社会は、また児童等の生活について、無関心たること能わぬのである。 夜業禁止や、時間制により、工場はある不幸な児童等は救はれたのであるが、尚、眼に見えざる場処に於ての酷使・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
出典:青空文庫