・・・見れば斎藤という、これも建設委員の一人。莞爾しながら近づき、「どうも相済まん、僕は全然遊んでいて。寄附金は大概集まったろうか」 寄附金といわれて我知らずどきまぎしたが「大略集まった」と僅に答えて直ぐ傍を向いた。「廻る所があるなら・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・彼は個人主義の法治国家のかわりに、社会連帯の利害の上に建設せらるべき文化国家の理想をおき換えることを要請した。文化国家は国家の統制力によって、個人が孤立しては到底得られないような教養と力と自由とを国民に享受せしめねばならぬ。かかる理想から労・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・理想的社会の建設――こうしたことまで思い及ぼされるようでなければならぬ。 学生時代の恋愛はその大半は恋の思いと憧憬で埋められるべきものだ。この部分が豊かであるだけ、それは青春らしいのだ。それが青春の幸福をつくるのだ。青春は浪曼性とともに・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 対岸には、搾取のない生産と、新しい社会主義社会の建設と、労働者が、自分たちのための労働を、行いうる地球上たった一つのプロレタリアートの国があった。赤い布で髪をしばった若い女が、男のような活溌な足どりで歩いている。ポチカレオへ赤い貨車が・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・等、ブルジョアジーがその生産方法の上に利用した科学の芸術的反映として、ブルジョア社会建設のために動員され、そして発展したものである。だから、そのなかに、日本ブルジョアジーの特色の一つをなす、軍事的性質が反映しているのは、怪しむに足りない。・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・其一例を示せば、 我日本国の帝室は地球上一種特異の建設物たり。万国の史を閲読するも此の如き建設物は一個も有ること無し。地上の熱度漸く下降し草木漸く萠生し那辺箇辺の流潦中若干原素の偶然相抱合して蠢々然たる肉塊を造出し、日照し風乾かし耳・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・新東京――これから建設されようとする大都会――それはおのずからこの打破と、崩壊と、驚くべき変遷との間に展けて行くように見えた。「ああ出て来てよかった」 と原は心に繰返したのである。再会を約して彼は築地行の電車に乗った。 友達に別・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・いきどころをもたないり災者の一半は、そのときも、まだ、救護局が建設した、日比谷、上野、その他のバラックの中に住んでいました。工兵隊は引つづき毎日爆薬で、やけあとのたてもののだん片なぞを、どんどんこわしていました。九階から上が地震でくずれ落ち・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・男は嘘をつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでもう日本の新しい建設が出来ると思う。」 私は焼け出されて津軽の生家の居候になり、鬱々として楽しまず、ひょっこり訪ねて来た小学時代の同級生でいまはこの町の名誉職の人に向って、そのような八つ当・・・ 太宰治 「嘘」
・・・そしてこれから先き生きているなら、どんなにして生きていられるだろうかと想像して見ると、その生活状態の目の前に建設せられて来たのが、如何にもこれまでとは違った形をしているので、女房はそれを見ておののき恐れた。譬えば移住民が船に乗って故郷の港を・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫