・・・もう一枚は閲兵式場の王女エリザベスの姿である。こちらの方は『ニュース・ウィーク』の投書欄にのっている。テキサスのトム・エフ・マンデンという人が七月十八日の『ニュース・ウィーク』にのったこの閲兵式の写真について、手紙をよこしているのだった。ト・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・湯川夫人の日本振袖の姿も、ノーベル賞授賞の式場に異国情緒を添えた。 それぞれの国の民族が婦人や子供、としより連まで固有の服装に身をかざって、その土地伝統の祭りを祝うような日の光景は、はた目にもおもしろく愉しいものだ。けれども、その美・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・告別式場の隅に佇んで、浄げな柩の方を猶も見守っていた時、久米さんが見え、二言三言立ちながら話した。 簡単な言葉であったが、私はその時今までのごたごたした心の拘りをすらりと抜け、自分がまともな心持で久米さんに物を云い、その顔を見たのを感じ・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・わたしたちは、そういう式場で「螢の光、まどの雪」という歌をうたい、涙を眼に湛えて誠之を卒業したのであった。 コの字に建てめぐらされた木造二階建の真下が女の遊び場で、左手にずっとひろがった広い砂利敷のところが男児運動場であった。そっちに年・・・ 宮本百合子 「藤棚」
・・・それらのことは父の葬儀の式場で、弔辞としても読み上げられた。併しながら、父が一人の父として、燦きのある暖い水のように豊富自由であり、相手を活かす愛情の能力をもち、而もそういう天賦の能力について殆どまとまった自意識を持たなかった程、天真爛漫で・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・本願寺の御連枝が来られたので、式場の天幕の周囲には、老若男女がぎしぎしと詰め掛けていた。大野が来賓席の椅子に掛けていると、段々見物人が押して来て、大野の膝の間の処へ、島田に結った百姓の娘がしゃがんだ。お白いと髪の油とのにおいがする。途中まで・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫