・・・清八は得たりと勇みをなしつつ、圜揚げ(圜トハ鳥ノ肝ヲ云の小刀を隻手に引抜き、重玄を刺さんと飛びかかりしに、上様には柳瀬、何をすると御意あり。清八はこの御意をも恐れず、御鷹の獲物はかかり次第、圜を揚げねばなりませぬと、なおも重玄を刺さんとせし・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・ところがそこへ来て見ると、男は杉の根に縛られている、――女はそれを一目見るなり、いつのまに懐から出していたか、きらりと小刀を引き抜きました。わたしはまだ今までに、あのくらい気性の烈しい女は、一人も見た事がありません。もしその時でも油断してい・・・ 芥川竜之介 「藪の中」
・・・青年が学者の真似をして、つまらない議論をアッチからも引き抜き、コッチからも引き抜いて、それを鋏刀と糊とでくッつけたような論文を出すから読まないのです。もし青年が青年の心のままを書いてくれたならば、私はこれを大切にして年の終りになったら立派に・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・かりで、いっそ何気なさそうな顔をして部屋の隅の状差しに、その持てあました葉書を押し込んで、フンといった気持で畳の上にごろりと寝ころんでもみましたが、一向に形が附かず、また起き上ってその葉書を状差しから引き抜き、短かすぎる文面を小声で読んで、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・とにたにた笑いながら短刀を引き抜き、王子の白い喉にねらいをつけた瞬間、「あっ!」と婆さんは叫びました。婆さんは娘のラプンツェルに、耳を噛まれてしまったからです。ラプンツェルは婆さんの背中に飛びついて、婆さんの左の耳朶を、いやというほど噛・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫