・・・店の主人は子供に物を言って聞かせるように、引金や、弾丸を込める所や、筒や、照尺を一々見せて、射撃の為方を教えた。弾丸を込める所は、一度射撃するたびに、おもちゃのように、くるりと廻るのである。それから女に拳銃を渡して、始めての射撃をさせた。・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・そして、引き金をおろしかけて、ふと打つのをやめてしまいました。「あの母ぐまを殺したら、どんなに子ぐまが悲しがるだろう。そして、晩から、あたたかなふところに抱いてもらって眠ることができない。かわいそうな殺生をばしたくない。」 こういっ・・・ 小川未明 「猟師と薬屋の話」
・・・「さっき俺れゃ、二ツ三ツ引金を引いたんだ。」 父子は、一間ほど離れて雪の上に、同じ方向に頭をむけて横たわっていた。爺さんの手のさきには、小さい黒パンがそれを食おうとしているところをやられたもののようにころがっていた。 息子は、左の腕・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・彼は、引金を握りしめた。が引金は軽く、すかくらって辷ってきた。安全装置を直すのを忘れていたのだ。「どうした、どうした?」 ピストルに吃驚した竹内が歩哨小屋から靴をゴト/\云わして走せて来た。 栗本は黙って安全装置を戻し、銃をかま・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・むしろ、これらの作家の小説と並んでその傍に、二、三行で報道されている、××の仕打ちに憤慨して銃を自分の口にあてゝ足で引金を踏んで自殺したという兵卒の記事の方が、はるかに深い暗示に富んでいる。 ただ、ブルジョアジーが、その最初の戦争からし・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 吉田は院庭の柵をとび越して二三十歩行くなり、立止まって引金を引いた。 彼は内地でたび/\鹿狩に行ったことがあった。猟銃をうつことにはなれていた。歩兵銃で射的をうつには、落ちついて、ゆっくりねらいをきめてから発射するのだが、猟にはそ・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・店の主人は子供に物を言って聞かせるように、引金や、弾丸を込める所や、筒や、照尺をいちいち見せて、射撃の為方を教えた。弾丸を込める所は、一度射撃するたびに、おもちゃのように、くるりと廻るのである。それから女に拳銃を渡して、始めての射撃をさせた・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・僕はねらいをつけた。引金をひく。 カッタンカッタン。 当らないのだ。「どうしたの?」とツネちゃんは、僕がたいてい最初の一発でしとめるのを知っているので、不審そうな顔をしてそう言う。「どいてくれ、お前が目ざわりでいけないのだ。・・・ 太宰治 「雀」
・・・少なくも震災が事件の「引金」を引いたのではないかという、漠然とした想像をした。そして、この事はともかくも、今度の震災が動機となって起ったであろうと思われる、ありとあらゆる事件や葛藤、それらの犠牲となったさまざまな人達の事を、空想の馳せる限り・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫