・・・ * 強者は道徳を蹂躙するであろう。弱者は又道徳に愛撫されるであろう。道徳の迫害を受けるものは常に強弱の中間者である。 * 道徳は常に古着である。 * 良心は我我の口髭のように年齢と共に生ずるもので・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 私はこの社会に於て弱者に対して、若しくは貧窮者に対して、これを救うという場合に、単にそれを気の毒だから助けてやるとか、若しくは慈善は善なる行為であるから救うとかいうのでは、反ってその人間を堕落させるのみで、決して社会の為めになるもので・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・強者は、徒らに弱者を虐げている事実を見あきる程見ている。人間が、人間を奴隷とし、自欲のためには、他の苦艱をも意としない、そのことが人道にもとるにもかゝわらず。不問にされることも知っている。そして、この社会は、民衆が喜んだり、楽しんだりするこ・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・ 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、まだ幾万年しかへていない人間社会にあって、つねに弱肉強食の修羅場を演じ、多数の弱者が直接・間接に生存競争の犠牲となるのは、目下のところやむをえぬ現象で、・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、尚だ幾万年しか経ない人間社会に在って、常に弱肉強食の修羅場を演じ、多数の弱者が直接・間接に生存競争の犠牲となるのは、目下の所は已むを得ぬ現象で、天寿を全・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 芸術家ハ、イツモ、弱者ノ友デアッタ筈ナノニ。 ちっとも秋に関係ない、そんな言葉まで、書かれてあるが、或いはこれも、「季節の思想」といったようなわけのものかも知れない。 その他、 農家。絵本。秋ト兵隊。秋ノ蚕。火事。ケムリ。・・・ 太宰治 「ア、秋」
・・・私は酒を呑んで、少し自分の思いを、ごまかしてからでなければ、友人とでも、ろくに話のできないほど、それほど卑屈な、弱者なのだ。 少し酔って来た。すし屋の女中さんは、ことし二十七歳である。いちど結婚して破れて、ここで働いているという。「・・・ 太宰治 「鴎」
・・・ 弱者への慰めのテエマが、まだ当分は、映画の底に、くすぶるのではあるまいか。 太宰治 「弱者の糧」
・・・いまは、弱者。もともと劣勢の生れでは無かった。悪の、おのれの悪の自覚ゆえに弱いのだ。「われ、かつて王座にありき。いまは、庭の、薔薇の花を見て居る。」これは友人の、山樫君の創った言葉である。 私の庭にも薔薇が在るのだ。八本である。花は、咲・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・「だめだよ。薬が効かないのだ。ゆるしてやろうよ。あいつには、罪がなかったんだぜ。芸術家は、もともと弱い者の味方だったはずなんだ」私は、途中で考えてきたことをそのまま言ってみた。「弱者の友なんだ。芸術家にとって、これが出発で、また最高の目的な・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫