・・・いや、むしろわたし自身には彼女の威圧を受けている感じの次第に強まるばかりだった。彼女は休憩時間にもシュミイズ一枚着たことはなかった。のみならずわたしの言葉にももの憂い返事をするだけだった。しかしきょうはどうしたのか、わたしに背中を向けたまま・・・ 芥川竜之介 「夢」
・・・ソヴェトの偉業にたいする讚歎の情があればこそ、ソヴェトが彼に希望することを許したものがあればこそ強まる彼の批評精神によって「ソヴェトによって実現された事業は十中の八九まで実に称讚に価する」のであるが、のこる十分の一に示されていると彼が感じた・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 内国的主題において国際的要素が強まるばかりではない。国際的主題そのものの発展が、プロレタリア文学の領域における主題の多様化にある功献をする時代が来ていることはすでに明かだ。この希望と見とおしで、われわれは一層活溌に、達成へ向っての勝利・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・敵をののしることによって敵を憤激させれば、それだけ敵が強まることになって損である、という利害打算もあるいは含まれているのかもしれぬが、しかし根本にある考えは、尊敬し得ないようなものは敵とするに価しない、敵に取ったということは尊敬に価する証拠・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・なぜなら、善への関心が強まるほど美への関心は一層強まり、従って後者を「ヨリ重んずる」ことがきわ立って来るからである。 たとえば我々が人の苦しみに面した場合には、その苦しみを味わうのみでなくさらに実際的にその苦しみを取り除こうとする衝動を・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫