・・・この支店長募集をすべてお前の頭からひねり出したように書いているが、また、そうして置く方が、お前の真相をあばく効果を強めることにもなるわけだろうが、むろんここへはおれの名を書きそえるところだった。いや、もっと正確を期するなら、一切合財おれが下・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・両手を組合したり、要点を強めるために片腕をつき出したり、また指の端を唇に触れたりする。しかし身体は決して動かさない。折々彼の眼が妙な表情をして瞬く事がある。するとドイツ語の分らない人でも皆釣り込まれて笑い出す。」「不思議な、人を牽き付け・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ それと同時にまた一歩進んで適当な雑音の插入がいっそうこの沈黙の強度を強めることもわかって来た。一鳥の鳴き声で山がさらに幽静になるという昔の東洋詩人の発見した事が映画家によって新たにもう一度発見され応用されるようになった。舗道をあるくル・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・主役をつとめるノバリーク兄弟とその敵役ショーンブルクの相貌もこの一種特別な感じを強めるもののように思われた。しかもそれらの顔のクローズアップのむしろ頻繁な繰り返しはいよいよその暗い印象を強めるのであった。 彗星の表現はあまりにも真実性の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 容疑者の容疑をもう一段強めるために、もう一つのエピソードを導入したいので次のような仕かけを考えたものである。この挿話の主人公夫婦として現われる二人の俳優の演技が老巧なためにこれが相当な効果をあげているようである。 銀座を追われた靴・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・なども実感を強めるための俗語として「速度の大なるすなわち運動の速い」の略語として通用を許してもそれがために物理学は何の損害をも受ける心配はないかと思われる。それで、負惜しみのようではあるが、物理学を専攻する人間でも、座談や随筆の中ではいくら・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・そのような努力の結果はかえって防ごうとする感じを強めるような効果があった。ところが医者のほうは案外いつも平気でいっしょに笑ってくれたりする。そうすると、もう手離しで笑ってもいいという安心を感じると同時に、笑いたい感覚はすうと一時に消滅してし・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・それによって自身の全組織を強めることをこそ窮極の眼目としてされなければならない。指導部に対する批判の場合にでも、それは常に自身の指導部を支持し、鼓舞するためにのみされなければならないのは明らかなことである。 この意味から云って、同志林は・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・ 劇場は上演を通して観衆の、オブローモフ主義、色情狂、悲観主義に対して闘おうとする意志を強める役に立つような仕事をやらなければならない。」 ソヴェトは劇場の数でベルリンやニューヨークより劣っているとしても、観衆の質は全然違う。ソヴェ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・的、社会的な問題を人民解放のひとこまとしてとりあげて描いたとしたら、二月ののちに広汎に起った物取り主義という批判そのものさえも当時あったよりはもっと複雑に労働階級を政治的に豊富にする作用をもち階級性を強める新しいバネとして受け入れられたでし・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
出典:青空文庫