・・・ 散歩も、ロザリーにとって、この感じを強めるにしか役立ちませんでした。二人の姉さんは小さい自分を放ぽり出して、気取って男のお友達と歩いたり、時には、「サ、いい子だから、あそこの角で誰も来ないか見て来てね」と立番をさせられたり。ロザリーに・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・都会の文化の中に人間の精神を強めるものと殺戮するものとがあるとおり、地方の文化のなかには別の形でその根づよさその伝統の力で、人間の精神を生かしまた殺すものがあるのは事実であろう。 文学の地方分散の傾向が、この面で大きく文化的な積極の作用・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・私を愛してくれる者はもちろんそれを承知してその集中を妨げないように、もしくはそれを強めるように、力を添えてくれます。しかし自分を犠牲にしてまでそれに尽くしてくれる者はただ一人きりです。他の者たちは、私からされるように望んでいる事を私が果たさ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・個性が完成せらるる度の強ければ強いほどそれは特殊の色彩を強めるのであるけれども、同時にまた人性の進化に参与する所も深くなる。特殊の極限はやがて普通となるのである。 個性の完成、自己の実現はいたずらに我に執する所に行われるものではない。偉・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・ たとえば青春期に著しい恋愛の憧憬や性慾の発動には、それを刺激し強める種類の滋養は必要でありません。なぜなら、そういう種類の滋養はわざわざ与えるまでもなく、日常の生活にありあまるほどあるからです。街を歩く。そこに美しい女がいます。その流・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫