・・・日本のようなインテリゲンツィアの社会環境と思想史とを持つところでは、或る意味で強固な個性が当時の流行的思想に反撥することが、一種の健全性としてあらわれる場合もある。然し、既に今日の現実の中では、わが個性の確立、発展の欲求を自覚すると同時に、・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・当時の権力はまんなかに治安維持法の極端な殺人的操法をあらわに据えて、それで嚇し嚇し、一方では正直に勇敢だった人々を益々強固な抵抗におき、孤立させ、運動を縮みさせ、他面では、すべての平凡な心情を恐怖においたてて、根本は治安維持法に対するその恐・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ ソヴェトの五箇年計画は、どんなにソヴェト同盟内の社会生活を飛躍させたか、生産における社会主義的前進が、ソヴェトの一般芸術をどんな力で、強固なプロレタリア・リアリズムの大道へ据えつける結果となったか。それ等について、ホントに知りたい読者・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・特権階級の者は、当時なお強固な基礎を失っていなかったし、労働者階級は失業や賃下げに対して闘って、労働して生きてゆく大衆としての力をもっている。ノッティンガムの礦夫の息子として生れ、教育のあった母のおかげと、自分の努力で大学に学ぶことのできた・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・私はプロレタリア婦人作家とし、彼の妻とし、革命的な働く婦人大衆の一人として進むべき道を益々みなさんとともに強固に進むだけです。〔一九三二年七月〕 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・ 夢中になりそうになる、忠実で、強固で、謙遜な同志の膏のにじみ出た顔へぴったり自分の顔をさしよせ、私は全身の力をこめて低く呼んだ。「今野」 その声で薄すり目をあけ、こっちを見た。「まだ死んじゃいけないよ。いいか? 口惜しいか・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・という文章は悪意を底にひそめた感情の鋭さや、その感情を彼によって使い古されている切札である知力や統計の力やによって強固にしようと努力している姿において彼のこれまで書いたどの文章よりも悲惨である。 現代のように錯綜し緊張し、処々ではも・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・大いに堂々と云われている結論なり断定なりが、十分精密強固な客観的事実の綜合の結果として、そう云われざるを得ないものであったことを文章のなかで自然と納得させて行く、という魅力、説得力を欠いている。文筆上の軍需景気とユーモアをもってゴシップに現・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・反民主的な文学とその作家たちとは、夜も昼も強固な敵をもたねばなるまい。そういう人々にとっては、芸術そのものが立って刃向ってゆくだろう。芸術、そして文学は、そもそもの本質が、人生を愛し、評価し、人一人の生命と創造力の大なる開花を歴史のうちに期・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・、作家でもあるということは、ただそのような現代文学を軽蔑してすむことではなく、そのような文学を発生させている日本の社会の状況そのものを改めて直視して、その追求の過程で、こんにちに実在しているより真実で強固な人間性とその文学の主張を生かしてゆ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
出典:青空文庫