・・・ 支那古来の聖人たちは、いつも強権富貴なる野蛮と、無智窮乏の野蛮との間に立って彼等の叫びをあげてきた。「男女七歳にして席を同じゅうせず」しかし、その社会の一方に全く性欲のために人造された「盲妹」たちが存在した。娘に目があいてるからこそ客・・・ 宮本百合子 「書簡箋」
・・・一見、愚劣と思われ、誰しも反対すると思われる方策を、政府が強権によって発動させる、という、その技術上の意味を、わたしたち人民は見抜く必要があるのではなかろうか。 宮城のみならず、おそらく、日本じゅうのあらゆる農村で、強制供出案は、うけい・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・局云々の考えかたを、そのようにケシかけたりするのは意外のようであるとし、山本有三、佐藤春夫、三上於菟吉、吉川英治その他が組織した文芸院の仕事の価値をも言外にふくめて「文学者がさもしい根性を出して俗界の強権者の保護を求めたりするのは、藪蛇の結・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・文学にたずさわる人々をこめた人民感情そのものの中に、自主たろうとするやみがたい熱望が覚醒していないために、これらの人々にとっては自主でなければならない、という民主主義のよび声は、自分のそとから、一種の強権の号令であるかのようにきこえるらしい・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・自分たちがまた再び外からの強権によって、死ぬる場所に追い立てられることは欲していない。愛するものを死なせる女たちではあるまいとしている。アジアの敵であり、日本人民の生命を売るものとして行動したいと思ってはいないのである。数百万人の戦争未亡人・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・戦争を強行するためには、すべての人民が、理不尽な強権に屈従しなければ不便であった。その目的のために、考え、判断し、発言し、それに準じて行動する能力を奪った。外的な一寸した圧力に、すぐ屈従するように仕つけた。無責任に変転される境遇に、批判なく・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・その中で政治的な事件の本質と、検事のとりしらべの強権にふれている。 三鷹事件が、多くの良識ある人にとって不明瞭な性質のものとしてうけとられているからと云って、検事が「でっちあげ」ていいというものだろうか。わたしたち一人一人が、どんなかの・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・各自の精神がどんなにそれを軽蔑していようとも強権と肉体への暴力で、特定の権力と目的とにしたがえさせられた。本郷の帝国大学のある本富士警察の留置場、学校の多い西神田署の留置場などは、東京の警察の乱暴な留置場の中でも、最も看守の粗暴なところであ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・でなければ、思想性でないように思う日本文化の一面にある根本的な非思想性は、考えさせまいとする強権に向ったとき、却って人間の権利としての精神的抵抗力を発揮し得なかったのである。 前進するためには、一歩一歩がしっかりとした自覚をもって踏みし・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・実はそのコンプレックスで感情を刺戟されるのに、そのことにはふれず、何か外部からの強権を反撥しでもするようなすねかたをすることは、止めるべきだと思います。 民主主義文学の最大の課題は、基盤となる階級の革命的成長とともに、ブルジョア文学の伝・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
出典:青空文庫