・・・ だから、私は小説家というものが嘘つきであるということを、必要以上に強調したくないが、例えば私が太宰治や坂口安吾とルパンで別れて宿舎に帰り、この雑誌のN氏という外柔内剛の編輯者の「朝までに書かせてみせる」という眼におそれを成して、可能性・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・人の道、天の理、心の自律――近くは人間学的倫理学の強調するような「世の中の道」にまでひろがるところの一般の倫理的なるものへの関心と心得とはカルチュアの中心題目といわねばならぬ。人生の事象をよろず善悪のひろがりから眺める態度、これこそ人格とい・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・そしてそれこそ日蓮の強調したところのものである。日本の知識層は実は文化に冷淡なのではなく、民族的文化、国家的思潮に冷淡なのである。そしてこのことたる全く従来の文化的指導者の認識のあやまりに由るのである。 日本の文化的指導者は祖国への冷淡・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・こゝでは、戦争に対する嫌悪、恐怖、軍隊生活が個人を束縛し、ひどく残酷なものである、というようなことが、強調されている。家庭での、平和な生活はのぞましいものである。戦場は、「一兵卒」の場合では、大なる牢獄である。人間は、一度そこへ這入ると、い・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・それだから女形の男優は、女というものの特徴を若干だけ抽象し、そうしてそれだけを強調して表現する。無生の人形はさらにいっそう人間の女になれるはずがない。それだからさらにいっそうこれらの特徴を強調する。その不自然な強調によって「個々の女」は消失・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ モンタージュという言葉を抽出し、その意義を自覚的に強調したのはプドーフキン一派の人に始まるかもしれないのであるが、要するにモンタージュは平凡な「編集」という言葉をもって代用してもたいしてさしつかえないという事はプドーフキンの著書の英訳・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・そうして日本の俳諧や短歌の中にモンタージュ芸術の多分な要素の含まれていることを強調しているそうである。 エイゼンシュテインがいかなる程度にわが国の俳諧を理解してこう言っているかはわかりかねるが、日本人の目から見ても最もすぐれたモンタージ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そういう中間的価値のものであれば、それを落第させたことに対する非難のあったときには、必ずどこかにはあるにきまっている弱味と欠点を指摘し強調すれば一応の申訳は立つであろうし、また及第させたことを責める人があった場合には、これも必ずあるにきまっ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・時間とフィルムを費やして撮影した夥しい材料の中から、無駄なものを省略し、最も重要なものだけを選び出し、それを巧みに編輯してあるから、観客は極めて短い時間の間にこの動物のあらゆる特徴を最も純粋にまた最も強調された形において観察することが出来る・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・してみると、これらの武家物は決してかくのごとき末世的武士道を礼讃し奨励するつもりではなく、反対にその馬鹿らしさを強調し諷諌するような心持が多分にあったのではないかとも想像される。しかしまた、西鶴のような頭のいい観察者が、真の武士道の中の美点・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
出典:青空文庫