・・・まんまとそれを種に暇を貰わせて、今の住居へおびき寄せると、殺しても主人の所へは帰さないと、強面に云い渡してしまったそうです。が、勿論新蔵と堅い約束の出来ていたお敏は、その晩にも逃げ帰る心算だったそうですが、向うも用心していたのでしょう。度々・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・頃、翰は夙に唐宋諸家の中でも殊に王荊公の文を諳じていたが、性質驕悍にして校則を守らず、漢文の外他の学課は悉く棄てて顧ないので、試業の度ごとに落第をした結果、遂に学校でも持てあまして卒業証書を授与した。強面に中学校を出たのは翰とわたしだけであ・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・そんなことに疳をたてたりしないで或る程度の社交性と彼等の幻想をこわさない程度の強面とを交互に示しつつ処してゆくのが、作者暮しの両刀の如き観がある。 作家の経済生活は、一般に益々逼迫して来つつあるし、これから先まだまだそれが切りつまって来・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・これを無条件に礼讚せざるものは、健全な日本文化人に非ずという強面をもって万葉文学、王朝文学、岡倉天心の業績などが押し出されたのであった。その旗頭としての日本ロマン派の人々の文章の特徴は、全く美文調、詠歎調であって、今日では保守な傾きの国文研・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・で支配されたところもあるでしょうけれど、ああいう冷い固いその人のその芯を貫いているような人生態度は、一朝一夕のものでなくて、矢張り女が昔から金で支配され得るものであった社会関係をいまは女が自分の方から強面に男に差向けてゆく、そう云う関係が露・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
出典:青空文庫