・・・ 大体レフ・トルストイの思想と芸術とは、世界文学に冠絶した強靭な追求力、芸術的描写の現実性をもっているにかかわらず、当時ロシアに擡頭し発展しつつあった社会思想とは全然別な道を行っていた。個人個人の人間性への自覚、道徳的・宗教的愛の実践と・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・この作品が道具立てとしてはさまざまの社会相の面にふれ、アクつよきものの諸典型を紹介しようと試みつつ、行間から立ちのぼって最後に一貫した印象として読者にのこされるものは、ある動的なもの、強靭で、肺活量の多いものを求めている作者の主観的翹望であ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・我々は、鋭く強靭に、粘りづよく自身の日常闘争を押しすすめよう。そのことによって、政治的に高まり、新しいタイプのプロレタリア作家として自身を鍛え上げよう。よいプロレタリア文芸の働き手はいつも必ず闘争においてひるむことを知らぬ卓抜周密な同志であ・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・文学がその作家の文学的性格の強靭さの故によるというよりは寧ろ、世間を渡る肺活量の大きさで物をいうという現象は、文化と文学のこととして何と解釈され、何と反省されなければならないことであるのだろうか。 文学に人間を再生させようという地味だが・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 民衆のこの生活力の上に立つ限りСССРはアメリカの僧侶が希望する以上に強靭な存在であるのだ。 ファイエルマンは明りを暗くすると、寝台の横のトリムボチカをあけ乍ら 私に云った。――私のすることを見もききもしないで下さいね 彼・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・それをしないからと云って叱るものがないにしろ、人間としてなすべきことと知ったときには我身に負うてそれを敢て行う合理性の強靭さではないだろうか。夏目漱石時代のインテリゲンツィアさえ、この人格自立の精神についての原則は理解し、主張している。文学・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・おのおのの特性を少しも失うことなく、而も友情と云う強靭な調帯によって、結果に於ては二人ながら希望する目的に向って、共同作業を営んでいるのです。 ここに於て、必然子供の出生と云うことに就ては、多くの場合、明かな意識が加えられて来ます。日本・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・繊細、強靭、且疳がつよくて、音に対する態度は貴族的であり命令的である。嵩よりも線の感じのつよい指揮の態度なのであった。 私の好みに必ずしもあうとはいえないながらその完成ぶり、大家ぶりにやっぱり感服した。 黒い服に栗色の髪をもったカル・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・リー夫人の科学上の学識、技能を更に広いところから包んで、そのものの完成をも可能ならしめたもの、それはもとより当時の社会の条件と、彼女自身の堅忍であり、不撓な意志でもあるが、もう一歩つきつめてその堅忍や強靭な意志が何処から生れて来ていたかと考・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・実際落葉樹の軟らかい葉には針のように突き刺すことができる。葉脈が縦に並んでいて、葉の裏には松の脂が出るらしい白い小さい点が細い白線のように見えている。実際強靭で、また虫に食われることのない強健な葉である。それに比べると、欅の葉は、欅が大木で・・・ 和辻哲郎 「松風の音」
出典:青空文庫