・・・「まあ九分までは出来たようなものさ、何しろ阿母さんが大弾みでね」「お母の大弾みはそのはずだが、当人のお仙ちゃんはどうなんだい?」「どうと言って、別にこうと決った考えがあるのでもないから、つまり阿母さん次第さ。もっともあの娘の始め・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・湯気のふきでている裸にざあッと水が降りかかって、ピチピチと弾みきった肢態が妖しく顫えながら、すくッと立った。官能がうずくのだった。何度も浴びた。「五へんも六ぺんも水かけまんねん。ええ気持やわ」と、後年夫の軽部に言ったら、若い軽部は顔をしかめ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・鞭でたたかれながら弾みをつけて渡り切ろうとしても、中程に来ると、轍が空まわりする。馬はずるずる後退しそうになる。石畳の上に爪立てた蹄のうらがきらりと光って、口の泡が白い。痩せた肩に湯気が立つ。ピシ、ピシと敲かれ、悲鳴をあげ、空を噛みながら、・・・ 織田作之助 「馬地獄」
・・・を被っていたのでその素質がかくされていたのに過ぎない、つまりはその殻を脱ぎ捨てる切っ掛けを掴んだというだけの話、けれどその切っ掛けを掴むということが一見容易そうでその実なかなかむつかしくて、その動作の弾みをつけるのは並大抵のことではなかった・・・ 織田作之助 「道」
出典:青空文庫