・・・であり、また他の後に従って、それで満足して、在来の古い道を進んで行く人も悪いとはけっして申しませんが、(自己に安心と自信がしっかり附随しかしもしそうでないとしたならば、どうしても、一つ自分の鶴嘴で掘り当てるところまで進んで行かなくってはいけ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ おお、あめつちを充てる十力のめぐみ われらに下れ」 にわかにはちすずめがキイーンとせなかの鋼鉄の骨もはじけたかと思うばかりするどいさけびをあげました。びっくりしてそちらを見ますと空が生き返ったように新しくかがやき、はち・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・その髯をつけたひとは、ちょっと片手を腰に当てる恰好で、「徳田さんは今地方から来た人と会議中ですから、それがすんだらすぐはじめます。すみませんがもう少し待って下さい」 もう一遍、「会議がすめば、つづいてすぐやりますから」とくり・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・とうとう火を安寿の額に十文字に当てる。安寿の悲鳴が一座の沈黙を破って響き渡る。三郎は安寿を衝き放して、膝の下の厨子王を引き起し、その額にも火を十文字に当てる。新たに響く厨子王の泣き声が、ややかすかになった姉の声に交じる。三郎は火を棄てて、初・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫