・・・……自動車はつい別になりましたんですが、……おなじ時に、――画家 私は乗合でしたがな――さよう……お一方、仕立てた方があったように思いますが、それは、至極当世風の髪も七三で……夫人 その女が……(やや息忙その女が、先生、宿へ着きます・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・これに反して新道沿いに新しく出来た当世風の二階家などで大損害を受けているらしいのがいくつも見られた。松本附近である神社の周囲を取りかこんでいるはずの樹木の南側だけが欠けている。そうして多分そのためであろう、神殿の屋根がだいぶ風にいたんでいる・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 当世風の娘ならば丈の高い、少しふとり肉の手のふっくりとして小さい、眼のまつ毛が長くて丸く大きく、唇もあんまり厚くなく、あごのくくれたような輪かくのはっきりしたかおがすき。物をいわれてもはぎれのいい少し高調子の丸みのある声で答え、たたみ・・・ 宮本百合子 「妙な子」
出典:青空文庫