・・・ 二 相本謙三郎はただ一人清川の書斎に在り。当所もなく室の一方を見詰めたるまま、黙然として物思えり。渠が書斎の椽前には、一個数寄を尽したる鳥籠を懸けたる中に、一羽の純白なる鸚鵡あり、餌を啄むにも飽きたりけむ、もの・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・ノ通リアノ時分ノコトヲオモイマスト、何ダカオカシクナリマス病気ヲオタズネ下サイマシタガ、コレハ重イトイエバ重イ、軽イトイエバ軽イ、ドチラニモナリマスノデ、カノ本復スルカト思エバ全快スノ方ノ組デス、当所へ参リマス前、凡ソ半年ホドヲ鵠沼ニ辛・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・と差出したのは封紙のない手紙である、大友は不審に思い、開き見ると、前略我等両人当所に於て君を待つこと久しとは申兼候え共、本日御投宿と聞いて愉快に堪えず、女中に命じて膳部を弊室に御運搬の上、大いに語り度く願い候神崎朝田・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・其他ハ当所ノ糟粕ヲ嘗ムル者、酒店魚商ヲ首トシテ浴楼箆頭肆ニ造ルマデ幾ド一千余戸ニ及ベリ。総テ這地ノ隆盛ナル反ツテ旧趾ノ南浜新駅ヲ羞シムベキ景勢ナリ。然リト雖モ其ノ諸ヲ吉原ニ比較スレバ縦ヘ大楼ト謂フ可キモ亦カノ半籬ニモ及ブ可カラズ。其ノ余ハ推・・・ 永井荷風 「上野」
出典:青空文庫