・・・人間の職業が専門的になってまた各々自分の専門に頭を突込んで少しでも外面を見渡す余裕がなくなると当面の事以外は何も分らなくなる。また分らせようという興味も出て来にくい。それで差支ないと云えばそれまでであるが、現に家業にはいくら精通してもまたい・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ 伸子一人の問題としてではなく、この四分の一世紀間に、日本の進歩的な精神が当面しなければならなかった多難な歴史の課題にふれながら。「伸子」と「二つの庭」との間に二十数年がけみされた事情の一つは、作者の成長のひまのかかったテムポである。も・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ これは男のひとの感情のなかでもきっと同じに現れることなのだろうと思うのだけれども、たとえばこうして異性の間の友情というものを当面とりあげて考えているとき、私の心には、異性の友情の胎とでもいうようなひろいものの感じで、女同士の友情の・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・プロレタリア作家が唯物弁証的把握によって自身の階級の当面の革命的モメントを正確に政治的に把握し得さえすれば――社会的矛盾における複雑活溌な相互関係とそれに対して階級として働きかけるプロレタリアートの革命性を具体的にとらえ得さえすれば、作品に・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 解毒剤 あらゆる面で、生活の正常な機能を破壊された七千万の日本人民が、今日当面している困難と辛苦とは、実に大きい。 複雑な重病にかかったとき私たちはどういう医者を求めるだろう。決して、おさすり町医は求めな・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ 女の仕事と職業とが性能の上からも一致し、正当な社会評価を求め得る気風が一般化されてこそ、女の生活は豊富になり、明るい力強さをもつと思います。当面生活の心配などなく、永年多額の金を修業につかうことのできたごく僅の女のひとたちだけが、いわ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・明日への課題として、芸術一般が当面しているむずかしく複雑な宿題と思われる。〔一九四〇年一月〕 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・そのポストが大整理という苦しい仕事に当面していず、たんまり利権の汁につかっている実利の地位であったのなら、いまの腐敗した政党人たちが、何でおとなしい技術出の個人にそんな椅子をゆずっておこう! 民自党の本質的なこわさが、故人の運命をアーク燈の・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・記念すべき一九一七年からソヴェト同盟は年々当面の生産計画とともに常に先へ先へ五ヵ年位ずつ一まとめにした生産拡大計画をもって進んで来た。一九二八―九年の経済年度から今回の五ヵ年計画が着手された時、資本主義国の「通」は先ず云った。「何だ! 別に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・当時、日本の民主主義革命そのものの特殊な性格、すなわち、これまでの封建性、絶対主義に対するブルジョア民主革命をおしすすめる過程に、当面の革命が成熟してゆくという特殊な歴史的条件は、見とおされていなかったわけではなかった。人民民主主義革命への・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫