・・・これを要するに、近年の西洋は、すでに学理研究の時代を経過して、方今は学理実施の時代といいて可ならんか。これを形容していえば、軍人が兵学校を卒業して正に戦場に向いたる者の如し。 これに反して我が日本の学芸は、十数年来大いに進歩したりという・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・之を形容すれば文明女子の懐剣と言うも可なり。一 女性は最も優美を貴ぶが故に、学問を勉強すればとて、男書生の如く朴訥なる可らず、無遠慮なる可らず、不行儀なる可らず、差出がましく生意気なる可らず。人に交わるに法あり。事に当りて論ず可きは大に・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・という形容語を冠せ、「影」の下に「うす黒き」という形容語を添えて、ことさらに重複せしめたるは、霜の白さを強く現さんとの工夫なり。その成功はともかくも、その著眼の高きことは争うべからず。 曙覧は擬古の歌も詠み、新様の歌も詠み、慷慨激烈の歌・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・けれども天上の舟というような理想的の形容は写実には禁物だから外の事を考えたがとかくその感じが離れぬ。やがて「酒載せてただよふ舟の月見かな」と出来た。これがその時はいくらか句になって居るように思われて、満足はしないが、これに定みょうかとも思う・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・ 異教徒席の中から赭い髪を立てた肥った丈の高い人が東洋風に形容しましたら正に怒髪天を衝くという風で大股に祭壇に上って行きました。私たちは寛大に拍手しました。 祭司が一人出てその人と並んで紹介しました。「このお方は神学博士ヘルシウ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・各新聞は、最大の形容のことばをつかって、その番くるわせについて書きたてた。けれどもそれらの記事は、おちついて読むわたしたちに滑稽な、またいくらか腹だたしい感じをあたえた。なぜといえば、トルーマン再選を奇蹟的だの意外だのと書きながら、一方でそ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・教養あるレスペクタブル・ファミリイであり、レスペクタブル・ファミリイと英語で形容するにふさわしい英文学の影響が、単に趣味にとどまらず作家的内容の一部にまで浸透しています。あなたは一人の母として、三人の小さい者たちとともに宵に寝、早朝におきつ・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・何ぜなら、感覚は要約すれば精神の爆発した形容であるからだ。 自分は茲では文学的表示としての新しき感覚活動が、文化形式との関係に於ていかに原則的な必然的関連を獲得し、いかに運命的剰余となって新しく文学を価置づけるべきかと云うことについて論・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・併し、彼らの話は、唐紙の倒れた形容と、秋三の方が勝味であったと云うこと以外に少しも一致しなかった。が、この二人の争いは、彼らにとって眼新しいものではないらしかった。彼らの話に拠ると、二人の家は村の南北に建っていて、二人の母は姉妹で、勘次の母・・・ 横光利一 「南北」
・・・蓮の花の開く時の音はポンという言葉で形容されているが、どうもそれとは似寄りのない、クイというふうな鋭い音である。何だろうとその音のする方をうかがって見たりなどしながら、また目前の蕾に目を返すと、驚いたことには、もう二ひら三ひら花弁が開いてい・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫