・・・生物の最下等の奴になるとなんだかロクに分らないのサ、ダッテ石と人間とは一所にならないには極ッてるが、最下等生物の形状はあんまり無生活物とちがいはしないのだよ。所を僕のねじねじ論で観念すると能く分るよ、但しあんまり能く分らない所が少し洒落てい・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 色彩をぬきにして浮世絵というものを一ぺんばらばらにほごしてしまうと、そこに残るものは黒白のさまざまな切片といろいろの形状をした曲線の集団である。こうしてほごした材料を一つ一つ取り出して元の紙の上にいろいろに排列してみる。するとそこにで・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・ それでもし各種母音に相当する口腔の形状大小を規定する若干の数量が定められれば、歌の口調というものはこれらの量を時間の函数として与える数個の方程式で与えられることになるので、従って口調というものの科学的研究がとにかくも可能になる訳である・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・の問題や、映写幕の形状の問題のごときものがある。また芸術的実写映画としての山岳映画や猛獣映画のごときものについても一通り述べたかったのであるが、これらについても他日適当な機会に、他の場所で一応の考察を試みたいと思う。 本編を草するために・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・この地鳴りの音は考え方によってはやはりジャーンとも形容されうる種類の雑音であるし、またその地盤の性質、地表の形状や被覆物の種類によってはいっそうジャーンと聞こえやすくなるであろうと思われうるたちのものである。そして明らかに一方から一方へ「過・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・それで雷鳴のする度ごとに私は厭かずに空を眺めては雲の形態や運動、電光の形状、時間関係、雷鳴の音響の経過等を観察するのが無上の楽しみになって来た。そうした雷の現象に関するあらゆる研究に興味を引かれてその方面の文献を、別に捜す気になるまでもなく・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・『仰臥漫録』に「顕微鏡にて見たる澱粉の形状」の図を貼込んであるのもそういう意味から見て面白い。 とにかく、文学者と称する階級の中で、科学的な事柄に興味を有ち得る人と有ち得ない人とを区別する事が出来るとしたら子規はその前者に属する方で・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・そしてその上にその地辷りなら地辷りが如何なる形状の断層に沿うて幾メートルの距離だけ移動したというような事が分ればそれで万事は解決されたごとく考える人もある。これは源因の第一段階である。 しかし如何なる機巧でその火山のその時の活動が起った・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・尤も雲の形状運動や、風向、気温のごとき今日のいわゆる気象要素と名づくるものの表示に拠りたる事もあれど、同時にまた動物の挙動や人間の生理状態のごとき綜合的の表現をも材料としたり。かくのごとき材料も場合によりてはあえて非科学的とは称し難きも、と・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
電車の中で試みに同乗の人々の顔を注意して見渡してみると、あまり感じの好い愉快な顔はめったに見当らない。顔色の悪い事や、眼鼻の形状配置といったようなものは別としても、顔全体としての表情が十中八、九までともかくも不愉快なもので・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
出典:青空文庫