・・・縦令舞台へ出る役割を振られてもいよいよとなったら二の足を踏むだろうし、踊って見ても板へは附くまい。が、寝言にまでもこの一大事の場合を歌っていたのだから、失敗うまでもこの有史以来の大動揺の舞台に立たして見たかった。 ヨッフェが来た時、二葉・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ しかし、このことは、一般が冷淡なる程、しかく差迫っていない問題であろうか、すでに、社会上の役割を終った老人等が、彼等の老後、貧困に陥り、衣食に窮するに至るとせば、当然、その責をこの社会が負うことを至当とするからである。これについては、・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・知れば、必ず行うという本能を持つ児童等に、架空的なお伽噺や、道徳談が、どれだけの役割を果し得ると考えられるでありましょうか。 こゝに、たゞ一つ、児童を愛する作家があります。各階級層を通じて、本能的に生育しつつある児童の生活を見、理論でな・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・が、それと共に兵卒は、背後のいろ/\な関係を集団としての自分達のなかに反映しつゝ、戦争に於ては最も重要な役割をなす。社会関係の矛盾も、資本主義が発展した段階に於て遂行する戦争とプロレタリアートとの利害の相剋も、すべてが戦線に出された兵卒に反・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・反立法としての私の役割が、次に生れる明朗に少しでも役立てば、それで私は、死んでもいいと思っていた。誰も、笑って、ほんとうにしないかも知れないが、実際それは、そう思っていたものだ。私は、そんなばかなのだ。私は、間違っていたかも知れないね。やは・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・のであった。私は、やはり、人生をドラマと見做していた。いや、ドラマを人生と見做していた。けれども人生は、ドラマでなかった。二幕目は誰も知らない。「滅び」の役割を以て登場しながら、最後まで退場しない男もいる。小さい遺書のつもりで、こんな穢い子・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・そうして僕の役割は、あの、庭園であさましい負け惜しみを言っていた家来であったかも知れないのだから、いよいよ、やり切れない話である。 草田惣兵衛氏の夫人、草田静子。このひとが突然、あたしは天才だ、と言って家出したというのだから、驚いた。草・・・ 太宰治 「水仙」
・・・時潮が私に振り当てた役割を、忠実に演じてやろうと思った。必ず人に負けてやる、という悲しい卑屈な役割を。 けれども人生は、ドラマでなかった。二幕目は誰も知らない。「滅び」の役割を以て登場しながら、最後まで退場しない男もいる。小さい遺書のつ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・勿論子音の排列分布もかなり大切ではあるが、日本語の特質の上からどうしても子音の役割は母音ほど重大とは考えられない。これがロシア語とかドイツ語とかであってみれば事柄はよほどちがって来るが、それでも一度び歌謡となって現われる際にはどうしても母音・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・光琳や芭蕉は少数向きの芸術映画、歌麿や西鶴は大衆向きのエロチシズム、写楽や京伝は社会的な諷刺画とでもいった役割ででもあろうか。また広重をして新東京百景や隅田川新鉄橋めぐりを作らせるのも妙であろうし、北斎をして日本アルプス風景や現代世相のペー・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
出典:青空文庫