・・・ そして、待機していると、世間は広いものだ。一生妻子を養うことが出来れば、六百円の保証金も安いものだと胸算用してか、大阪、京都、神戸をはじめ、東は水戸から西は鹿児島まで、ざっと三十人ばかりの申し込みがあった。なけなしの金をはたいたのか、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・七月末には、できるでしょうという家主の言葉であったのだが、七月もそろそろおしまいになりかけて、きょうか明日かと、引越しの荷物もまとめてしまって待機していたのであったが、なかなか、通知が来ないのである。問いあわせの手紙を出したりなどしている時・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・今年のメーデーは特別神経過敏で、警官を半数ずつトラックに載せて一時間おきにつみかえ、待機するようにという説があった。しかし、それも余り仰々しいというのでトラックを準備するだけになった。看守が疲労で蒼くむくんだ瞼をし、「……トラックにのっ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・咲枝さんは正に今にも、というところで、うち中待機の姿勢です。なかなかの緊張ぶりです。 お正月になったらと楽しみなことがあります。それはまた自分で手紙をかいてもいいという許しを自分に出そうと思って。今度はどんな字を書くでしょう。少しは小さ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・一人が椅子から腰を浮かすや否や、背後に待機していた人が極めて敏捷に、そのあとへ坐る。立った人の脚の片方がまだ椅子のところからどききらないうち、もう新手のひとの片脚はその片脚のわきに来ている。その位のすばしこさである。大抵のひとが上着をぬいだ・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
出典:青空文庫